消化器の病気

猫の膵炎の原因や症状とは?治療法や食事(フード)についても解説

投稿日:2017年5月16日 更新日:

 

「猫が膵炎と診断された!何が原因?」

「猫の膵炎ってどんな症状が出るんだろう?治るのかな?」

人にも多い「膵炎」という病気についてご存知の方も多いと思いますが、猫の膵炎では人のようにアルコールの摂り過ぎが原因となることはなく、まだ解明中の病気です。

今回は、そんな猫の膵炎の原因、症状、治療法について解説します。

猫の膵炎

まず、膵臓にはどのような役割があるのでしょうか。

膵臓の役割

膵臓は小腸の始まりの部分である十二指腸の内側にある細長い臓器で、右葉と左葉に分かれています。
膵臓には、消化酵素を分泌する「外分泌」と血糖値の調節をする「内分泌」という2つの役割があります。

外分泌(消化酵素の分泌)

膵臓は腸の消化を助ける「膵液」を分泌し、膵管を通って十二指腸へ送り出し食べ物の消化と吸収を助けます。
膵液は、たんぱく質を分解する「トリプシン」、炭水化物を分解する「アミラーゼ」、資質を分解する「リパーゼ」という強力な消化酵素を含んでいます。

内分泌(血糖値の調節)

膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる部分は、血糖値を低下させる「インスリン」と反対に血糖値を上昇させる「グルカゴン」というホルモンを分泌し、血液中の糖の濃度を調節しています。

猫の膵炎

膵炎とは、膵臓に炎症が生じた状態のことで、病態や炎症の所見から、急性膵炎と慢性膵炎に分類されます。

急性膵炎

通常、膵臓から分泌される消化酵素は膵臓を傷つけることなく十二指腸へ運ばれていきますが、なんらかの原因によって膵臓内で消化酵素が活性化して、膵臓自体を消化してしまう「自己消化」をすることで炎症を起こします。

慢性膵炎

なんらかの原因で膵臓の組織がゆっくりと破壊されて、膵臓が硬くなる線維化を起こします。

猫の膵炎の原因

猫の膵炎においては、はっきりとした原因は明らかになっていません。
腹部の外傷や猫伝染性腹膜炎、トキソプラズマ症などの感染症、肝リピドーシスなどが関与していると考えられています。
猫の肝臓と腸をつなぐ胆管と膵管は同じ位置に開口しているため、胆管や腸に病変がある猫では、膵炎になりやすいと言われています。
また、肥満した猫での発症が多いと言われています。

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猫の膵炎の症状

猫の膵炎は特徴的な臨床症状はなく、元気消失や食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛といった他の病気でもみられるような漠然とした症状が多く、診断が難しい病気です。
基本的に、急性膵炎の方が症状としては激しくなります。

急性膵炎の症状

上腹部の激しい痛み、嘔吐を繰り返す、食欲がなくなるといった症状がみられます。
突然発症し、悪化するため動物病院での救急対応が必要となります。

慢性膵炎の症状

嘔吐を繰り返す、下痢、痩せるなどの症状がみられます。
糖尿病や肝臓疾患を併発することが多く、重症化する場合もあります。

関連していることが多い病気

膵炎は他の病気と関連して生じていることの多い病気です。

猫の「三臓器炎」

猫の膵臓は十二指腸や肝臓、胆のうなどに囲まれているため、それらの部位からの炎症から膵炎になったり、膵臓・肝・腸の炎症を併発する「三臓器炎」という病態になることも少なくありません。

糖尿病

糖尿病はインスリンの不足によって持続的な高血糖や代謝異常が起こる病気です。
猫では膵炎が原因となる糖尿病も多く、炎症により膵臓のランゲルハンス島が破壊され、インスリン不足によって糖尿病になります。
多飲多尿、食べていても痩せるなどの症状がみられ、悪化すると血液中にケトン体という老廃物が増加して嘔吐や下痢がみられ、昏睡状態に陥り命を落とすこともあります。

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肝リピドーシス(脂肪肝)

肝臓に脂肪が溜まり正常に機能しなくなる病気で、肥満した猫でよくみられますが、膵炎で食欲不振となり栄養不足が続くことで、体のエネルギーが肝臓に一気に運ばれて脂肪肝となり肝リピドーシスに陥りやすくなります。
元気や食欲の低下、体重減少、下痢や嘔吐がみられ、進行すると黄疸がみられます。
また、肝機能の低下により毒素が体内に溜まって昏睡状態となる「肝性脳症」を示すことがあり、命にかかわる非常に危険な状態です。

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膵外分泌不全

膵炎が慢性化して膵臓の外分泌機能が正常に働かなくなった状態のことで、主に消化不良を起こします。
症状としては、食べているのに痩せる、油っぽい便(脂肪便)、便の量が増える、食糞行動、毛づやが悪くなる、ビタミンB12不足などがみられます。

肝外胆管閉塞

肝臓と腸を結ぶ肝外胆管が胆管、膵臓、十二指腸の炎症で閉塞してしまい、黄疸、食欲不振や消化器症状が多くみられます。

膵炎の診断のための検査

猫の膵炎はどのような検査をして診断するのでしょうか。

血液検査

血液検査では、肝酵素値の上昇、高ビリルビン血症、高血糖、高コレステロール血症がみられます。
アミラーゼやリパーゼのような膵酵素値は膵炎の診断にはあまり特異性がなく、これまでは肝疾患と誤診されたり、膵臓疾患を疑うことは難しいとされていました。
しかし、最近では「猫膵特異的リパーゼ」という膵炎に特異的な検査項目の測定が可能となり、猫の膵炎の診断率が向上しています。

腹部の超音波検査

猫膵特異的リパーゼ値が上昇している場合、腹部の超音波検査で膵臓の状態を評価します。
膵臓が腫れて大きくなっているなどの変化がみられる場合には、膵炎の可能性があります。
また、猫膵特異的リパーゼ値が低い場合でも、症状から膵炎が疑われる場合に行うこともありますが、この検査だけで膵炎と診断するのは難しいです。

猫の膵炎の治療

膵炎の治療は特効薬となるような明確な治療がなく、主に対症療法と食事療法が行われます。

対症療法

輸液

食欲不振や嘔吐で脱水や栄養失調となるため、静脈点滴を行い水分やミネラルを補います。

制吐薬(吐き気止め)

繰り返す嘔吐は脱水や栄養失調を引き起こし、重症化させてしまうことから、マロピタントやメトクロプラミドなどの制吐薬を投与します。

鎮痛薬

猫は痛みを隠しがちですが、激しい腹痛によって食欲が落ちていることもあり、鎮痛剤の投与が有効な場合もあります。

抗生物質

腹膜炎や敗血症などを併発している場合には、抗生剤を投与することもあります。

ステロイド

慢性膵炎がステロイド投与によって改善したという報告もあります。
また、前述の「三臓器炎」などを併発している場合には、抗炎症薬であるステロイドが有効となります。

食事療法

以前は膵炎を発症すると1~2日間の絶食が必要と言われていましたが、最近では早期の栄養補給が推奨されています。
とはいえ、嘔吐を繰り返していると自然に摂食するのは難しいのですが、特に猫では絶食による肝リピドーシスのリスクが高いため、栄養カテーテルなどで強制的に栄養補給することもあります。

低脂肪フード

猫でははっきりわかっていませんが、高脂肪食が膵炎の悪化要因である可能性があるため、脂肪分の少ない低脂肪フードを与えることもあります。
肝リピドーシスのリスクを下げるためにも高栄養で良質のタンパク質を与えることも重要となりますが、それらに配慮した療法食もありますので、獣医師に相談して与えましょう。

減量

肥満によって膵炎が悪化することがあるため、肥満している猫は適正体重まで減量させることが望ましく、食事制限や一回量を減らして食事の回数を増やすなどの食事管理を行います。

猫の膵炎の予後

膵炎になった猫はどのような予後になるのでしょうか。

完治する?

完治するかは膵炎の重症度によって異なり、軽度で早期に治療すれば完治するでしょう。
急性膵炎で、嘔吐が止まらず、他の臓器まで障害を受けているような重篤な場合には命を落とすこともあります。
また、再発を繰り返すこともあり、徐々に膵臓の機能が壊されて、糖尿病や膵外分泌不全を引き起こし、重症化するケースもあります。

どのくらいの治療期間で治る?

急性膵炎の場合には、輸液や栄養管理が徹底して行われますが、軽度であれば数日で改善がみられますし、重症であれば1~数週間の長期入院が必要となることもあります。
慢性膵炎の場合には、長期にわたって膵臓がダメージを受けているため、元の機能にまで戻らないことも多く、生涯にわたっての治療が必要となる場合もあります。
食事管理や定期的な検診など、獣医師と相談しながら治療を続けましょう。

さいごに

猫の膵炎は最近になって正しく診断されることが多くなった病気で、亡くなった猫を調べたところ半数以上が膵炎であったという研究報告もあります。
もともと猫はよく嘔吐をしますし、食べ方にムラが出やすいため、飼い主さんも異常に気付かないうちに回復しているということもあります。
猫が定期的に嘔吐を繰り返しているなどの症状があれば、膵炎を繰り返している可能性もありますので、動物病院を受診することをお勧めします。





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