血便とは、新鮮な赤い血液が糞便中に認められることを言い、結腸や直腸といった大腸(下部消化管とも言います)もしくは肛門からの出血が原因となります。
猫が血便をしたら、いくら元気があっても飼い主の方は「何の病気になってしまったのだろう?」「どのタイミングで動物病院を受診したらいいのだろうか?」と、心配になりますよね。
そこで今回は猫が元気だけれど血便している場合、飼い主の方がチェックすべきポイントは何か、血便の原因としてどんな病気が考えられるのかなど詳しく解説したいと思います。
猫が血便。元気以外に気をつけて見ておくこととは?
「猫が血便をしているが今のところ元気がある」場合、飼い主の方はその他にどんなことに注意して猫の様子を観察したらいいのでしょうか?
排便の状態を確認しよう
血便をしている時の便の状態、排便回数、排便時の様子を確認することはとても大切です。
まずは、血便は突然見られた症状なのか、2週間以上前から時折みられる症状なのかによって疑う病気は変わってきます。
始めの血便がいつだったのかを確認しましょう。
もし大腸が原因で見られる血便の多くは下痢を伴っており、いつもより排便回数が多くなることがあります。
そして“しぶり”といって頻回にわたって便意をもよおすのに排便が見られないもしくは、少量しか排便しない症状が見られます。
一方、肛門の病気の場合は、下痢はなく排便回数は正常か、むしろ便が出しづらい(便秘)こともあります。
肛門に異常が起きている場合は、排便時に痛みを伴うことがあったり、猫がお尻周りを気にして舐めているといった症状を表すこともあります。
食欲はあるか
元気そうに見えても、いつもより食欲が低下しているということもあります。
元気があっても食欲が落ちているというのはやはり見逃せない病気のサインですので、早めに動物病院を受診した方がいいでしょう。
嘔吐はないか
小腸の病気ほど多くはありませんが、大腸の病気によって嘔吐が見られることもあります。
「嘔吐も伴っているけど、意外と元気にしている」というケースは慢性の大腸の病気では珍しくありませんので、元気だからといって様子を見すぎないことが大切です。
食事の変更はないか
突然の食事の変更が原因で腸内環境が大きく変化することも珍しくなく、その結果として血便が見られることがあります。
血便の見られたタイミングと食事の変更時期が近いかどうかを確認しましょう。
もし与えたものが血便の原因として疑わしい場合は、中止しておきましょう。
環境の変化はないか
軽度な下痢や血便ならば、猫にとってストレスとなるような原因があった可能性が考えられます。
例えば、ペットホテルに預けたり、旅行に出かける、新しい動物を飼育しはじめたなどの環境の変化はなかったでしょうか?
このような環境の変化があったにせよ症状が重度であれば、「ストレスのせいだから」といって様子を見すぎないように注意しなければいけません。
最近飲ませ始めた薬はないか
抗生物質を投与することで腸内細菌のバランスが乱れ、嘔吐や下痢、血便といった症状が見られることもあります。
もし内服中の薬やサプリメントが血便のきっかけとして疑わしい場合は、処方した動物病院へ相談するようにしましょう。
猫の血便の原因にはどんな病気がある?
それでは猫の血便の原因として考えられる病気を解説していきたいと思います。
感染性大腸炎
ウイルスや細菌、寄生虫の感染が原因で起こる大腸炎を“感染性大腸炎”といいます。
原因
猫で下痢を起こすウイルスには、コロナウイルス、猫汎白血球減少症ウイルス(猫パルボウイルス)、細菌にはクロストリジウム、サルモネラ、カンピロバクターなどが挙げられます。
また消化管に寄生する寄生虫は沢山ありますが、中でもトリコモナスやジアルジア、コクジシウムといった原虫は重度の下痢や血便を伴うことがあります。
⇒猫のパルボウイルス感染症(汎白血球減少症)とは?症状や治療法を解説
症状
感染性大腸炎の症状は共通して、頻回の排便(しぶり)、粘液や鮮血を含む便を排泄します。
また、元気食欲不振や嘔吐などの症状も合わせて見られることがあります。
診断
寄生虫に関しては糞便検査で虫卵もしくは虫体を確認することで診断します。
一方、細菌性やウイルス性に関しては対症療法で症状の改善が見られることが多いこと、便の中の病原体の遺伝子検査まで行わないと特定できないことが多いため、診断よりも治療を優先することが一般的です。
ただし、子猫のパルボウイルスは積極的な入院管理を行わないと致死的かつ、ウイルスの感染力が強力であるため、病院で簡易検査を行うこともあります。
治療
寄生虫性大腸炎であれば駆虫薬の投与を行います。
細菌性もしくはウイルス性大腸炎であればプロバイオティクスなどの整腸剤や整腸効果のある抗菌薬を投与します。
症状が重度であれば、入院下で点滴治療を行うこともあります。
炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患とは、「原因不明で慢性的に消化管粘膜に炎症が起こる病気」の総称です。
原因
現時点ではなぜ病気を引き起こされるのか、原因が特定されていません。
症状
炎症性腸疾患は、大腸だけでなく小腸にも発生します。
どの部位で強い炎症が起きているかによって症状に差はありますが、2週間以上続く慢性的な下痢や嘔吐、食欲不振、体重減少が主な症状です。
診断
診断には内視鏡検査などの組織検査が必要で、多くの場合“リンパ球形質細胞性腸炎”“好酸球性腸炎”などの診断名がつけられます。
治療
この病気の治療の目標は、食欲を安定させ痩せないようにする、下痢や嘔吐の軽減させることです。
治療の基本は内服で、ステロイド剤や抗菌薬、プロバイオティクスといった整腸剤の投薬を行います。
また、消化管に負担のない食事(食事療法)をとることで内服の量を減らすことができます。
大腸の悪性腫瘍
猫も人間同様に大腸に悪性腫瘍ができることがあります。
原因
大腸に限らず猫の消化管にできる悪性腫瘍で圧倒的に多いのがリンパ腫ですが、その他にも腺癌や肥満細胞腫などが発生することもあります。
悪性腫瘍の多くは中高齢の猫に発症しますが、猫白血病ウイルスに感染している場合は若齢でもリンパ腫の発生が見られることがあります。
⇒猫の肥満細胞腫の原因や症状や治療法は?良性や悪性とは?余命はどのくらい?
⇒猫の悪性リンパ腫の症状とは?ステージ別の余命、生存率はどのくらい?
⇒悪性リンパ腫の猫にステロイドや抗がん剤治療の効果は?費用はどのくらいかかる?
症状
大腸炎と同様の症状がでますが、経過は慢性経過を示すことが多いです。
診断
消化管の腫瘍を診断する上で、超音波検査および細胞診(もしくは組織検査)は不可欠です。
治療
原因となる腫瘍がどんなタイプのものなのか、発生している部位が消化管のどの範囲によって治療の選択肢は異なりますが、抗癌剤や外科手術などの治療を行います。
肛門嚢炎
肛門嚢とは、“肛門腺”と呼ばれる分泌腺のある袋状の器官で、肛門の4時と8時の方向に1つずつあり、ここに炎症が起きることを肛門嚢炎と言います。
原因
肛門嚢炎の原因は細菌が感染です。
症状
肛門の脇が赤く腫れあがって痛みが出るため、しきりにお尻を気にして舐めたり、お尻を床に擦りつけるような仕草が見られるようになります。
次第に炎症が起きている箇所の毛が抜けたり、さらに悪化すると腫れた肛門嚢が破けて、皮膚の外に貯まった液が排泄されるようになります。
治療
抗生物質の内服に加え、患部の毛刈りや洗浄を行い清潔にしてあげることが大切です。
肛門にできる悪性腫瘍
発生頻度は決して多くはありませんが、肛門自体に悪性腫瘍が発生することがあります。
原因
猫の肛門周囲には肛門嚢腺癌(別名:肛門嚢アポクリン腺癌)や扁平上皮癌、肥満細胞腫などの腫瘍が見られることがありますが、中でも発生頻度が高いのは肛門嚢腺癌です。
症状
肛門に腫瘍ができると、排便困難、食欲不振などの症状が見られる他に、便に血が付いたり、肛門周囲が腫れたり出血したりします。
また猫が肛門周囲を気にするような仕草が見られることあります。
治療
しこりを無くすためには外科手術が必要ですが、肛門も一緒に摘出しなければならず、手術後の管理が非常に複雑です。
またすでに他の臓器(特に骨や肺)、リンパ節に転移していることが分かっているケースでは手術が適応されないこともあります。
さいごに
元気に見えていても血便自体は病気のサインですので、この記事に当てはまる症状が見られるようなら、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
始めは元気だった猫がいよいよ元気がなくなってきたという時は、病気がかなり進行してしまっている場合があります。
少しでも猫の様子が「いつもと違う」と思われたら早めに治療を受けるようにすることが、病気をこじらせない為にも重要なことになりますよ。
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