「猫がだいぶ太ってきてしまったけど、猫も糖尿病になるのかな?」
「猫が糖尿病と診断されたけど、何が原因なんだろう?」
「猫が糖尿病で入院しているけど、治療費用がいくらかかるのか心配」
このような疑問やお悩みはありませんか?
実は人間同様、猫にとって糖尿病は決して珍しい病気ではありません。
去勢手術後に肥満になってしまったり、室内外で慢性的な運動不足になると糖尿病のリスクが高くなります。
今回は「猫の糖尿病」にスポットをあて、原因や症状、治療法、費用など獣医師の私が詳しく解説したいと思います。
猫の糖尿病ってどんな病気?
糖尿病とは、膵臓から出る“インスリン”というホルモンの分泌量が減ったり、インスリンが上手く働かなくなるために高血糖が引き起こされる病気です。
まずはインスリンとはどんなホルモンなのか、猫の糖尿病の症状や原因、診断方法ついて解説したいと思います。
インスリンの働き
インスリンは細胞内に糖がエネルギーとして利用するのを促す働きをしています。
そのため、インスリンがうなく作用しないと細胞で糖が代謝されず、血液から尿へ糖が排泄されてしまいます(尿糖)。
糖尿病のタイプは2つ
糖尿病は大きく分けてⅠ型とⅡ型の、二つのタイプがあります。
Ⅰ型は膵臓から分泌されるインスリン量の絶対的な不足が原因とされ、犬に多いタイプの糖尿病です。
Ⅱ型は食べ過ぎや運動不足といった人間でいう生活習慣が原因とされ、体が上手くインスリンに反応しなくなってしまうタイプの糖尿病です。
猫には比較的この型が多いとされています。
糖尿病の原因とは?
10歳以上の高齢猫、去勢雄、肥満な猫は糖尿病になりやすいことがわかっています。
では猫が糖尿病になってしまう原因とはなんでしょうか?
糖尿病を引き起こす原因には前述したⅡ型糖尿病以外にも、膵炎に併発して起こる糖尿病、ステロイド剤の長期もしくは大量投与による医原性糖尿病、遺伝的な要素が関連していると言われる若年性糖尿病などがあります。
この中で若年性糖尿病以外は、最終的にインスリン治療を終了できる(寛解する)可能性があるとされています。
糖尿病の症状について
糖尿病になると、“多飲多尿”と呼ばれる沢山水を飲んで色の薄い尿を大量に排泄する症状が出ます。
この他にも糖尿病の症状は、食べているのにやせてきた、もしくは食欲がなくなってきた、下痢や嘔吐することが増えた、元気がない、よく寝ている、毛づやが悪くなった、などの不調が見られます。
また糖尿病が原因となって二次的に細菌性膀胱炎や末梢神経障害を起こすことがあります。
細菌性膀胱炎になると血尿や頻尿などの症状が見られたり、末梢神経障害になると「かかとをつけて歩く」という特徴的な歩様の異常が見られるようになります。
ちなみに犬では糖尿病になると白内障になることが多いですが、猫ではまず見られません。
糖尿病の診断方法は?
糖尿病が疑われたら、血液検査や画像検査といった全身的な検査を行う必要があります。
血液検査
血液検査で持続的な高血糖(>300mg/dl)を、尿検査で尿糖を確認することが糖尿病の診断に必要不可欠です。
猫ではストレスで一時的な高血糖を起こすことがあるので、長期にわたって高血糖が見られているかどうか“糖化アルブミン”もしくは“フルクトサミン”という項目を調べることも重要です。
また、糖尿病の中でも命に関わる重篤な状態である“糖尿病性ケトアシドーシス”に陥っていないか、血液中のケトン体や血液中のpH、重炭酸塩濃度なども調べます。
画像検査
レントゲン検査(X線検査)や超音波検査を行い、膵炎などの糖尿病を引き起こす基礎疾患がないかどうかを確認します。
猫の糖尿病の治療方法とは?
猫の糖尿病の治療の基本は食事療法に加え、1日2回のインスリンの注射を行うことになります。
猫の糖尿病は早期に適切に管理されると、「寛解(かんかい)」といってインスリン注射の必要がなくなる場合がありますので、できるだけ早くに糖尿病の症状に気づくことが大切です。
では飼い主の方が最も気になる糖尿病の治療方法について詳しく解説していきましょう。
食事療法
元気食欲が比較的安定している糖尿病の猫ならば、「高繊維食」や「低炭水化物高タンパク質食」の食事療法に切り替えることによって、急激な血糖値の上昇を抑えることができるようになり、インスリン量を減らしたり血糖値のコントロールをしやすくすることができるようになります。
また糖尿病の療法食にはL-カルニチンといってエネルギーの代謝の適正化をサポートする成分も含まれています。
具体的な療法食の例としては、ロイヤルカナン製の糖コントロール、ヒルズコルゲート製のw/d(ダブリューディー)もしくはm/d(エムディー)が挙げられます。
いずれもドライフードとウェットフードの2種類のタイプがありますので、猫の好みによって選択してみるといいでしょう。
当然のことながら、元気食欲が落ちていて1日に必要な摂取量をきちんと食べることができていない猫に食事療法を開始することは困難ですので、獣医師の指示を仰ぎましょう。
インスリン療法
高血糖が長期に及ぶと膵臓が疲弊してしまい。寛解のチャンスを逸してしまうだけでなく、糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる糖尿病の中でも危険な状態に陥ってしまうため、早期のインスリン療法が重要になってきます。
現在多くの動物病院では、猫の糖尿病の治療にはヒト用持続型インスリンを使用しており、具体的には人体薬である“ランタス”もしくは“レベミル”といった商品が主流になっています。
なお、2016年には動物用医薬品として認可された“プロジンク”というインスリンも販売されるようになり、3つ目の選択肢ができました。
どのインスリンを使い続けるのかは、実際に猫に投与してみて試行錯誤することが多く、獣医師の経験と判断で3種類のうちのどれかを選択することになるでしょう。
血糖管理に関して詳しくは後述しますが、ヒトでは持続型インスリンは1日1回の投与で血糖値がコントロールされますが、猫では概して1日2回必要です。
⇒糖尿病の猫の管理の仕方。インスリンの注射の仕方、血糖値の測り方など詳しく解説
糖尿病の基礎疾患の治療
膵炎といった基礎疾患から引き起こされている糖尿病なのであれば、当然その治療が必要となります。
また、ステロイド剤の投与によって引き起こされた医原性糖尿病であれば、ステロイド剤を中止し他の薬剤で病気のコントロールを試みるか、もしくは最低限のステロイド剤へ減量していく工夫が必要になります。
糖尿病の血糖管理とはどんな風に行うの?
猫が糖尿病と診断されたら、できるだけ1日の血糖値を80〜300mg/dlの範囲で抑えるような管理が必要です。
獣医師によって違いはありますが、実際どのようにして猫の血糖値をコントロールしていくのかについておおまかに解説したいと思います。
始めのインスリン療法
始めの数日間は実際にインスリンを投与してみて、命に関わる低血糖が起こってないかどうか、インスリンを打って何時間後にどのくらい血糖値が下がるかを確認するため、2〜3時間おきに血液検査をします。
食欲元気の落ち着いている猫であれば、この期間は朝から夜までの半日入院で行うこともありますが、反対に状態の芳しくない猫や良好に血糖値がコントロールできない場合は入院下で血糖管理をすることもあります。
正常な血糖値は100mg/dl程度ですが、この時期は食欲も安定していないことも多いためこの値を目指さず、最低血糖値が300mg/dlを下回っていること、最低血糖値が80mg/dl以下になっていないことを目標とします。
そして、この期間に一番大切なのが飼い主の方が猫の糖尿病を理解し、「自宅でのインスリン注射に慣れること」だと筆者は考えています。
第2段階のインスリン治療
初期治療を順調に開始でき、少しずつ猫の一般状態(元気食欲、体重の増加など)が改善してきていれば、1〜2週間に1度の通院治療になります。
インスリンの過不足がないかまた半日程度の血糖値を確認したり、フルクトサミンや糖化アルブミンの値を確認します。
またインスリンの注射に飼い主の方が慣れてきたら、その他猫の食事量や飲水量、尿の回数などを確認してもらえると非常に参考になります。
またこの段階でしっかりとインスリンを注射していると、猫の疲れてしまった膵臓機能が少しずつ戻ってくるので、低血糖にも注意が必要になってきます。
そしてインスリン注射開始から数ヵ月以上経ち、さらに状態が安定してインスリンの種類、量が定まってきたら1〜2ヵ月程度の通院で経過を観察していきます。
猫の糖尿病についてよくある疑問
飼い猫が糖尿病の疑いがあると心配されている飼い主の方、もしくはもうすでに糖尿病と診断された場合に抱かれる疑問をピックアップして解説します。
糖尿病になるとなぜ多飲多尿になるの?
多飲多尿がなぜ起こるのか?ですが、高血糖になると尿中に多量の糖が含まれるため水も引き込まれてしまい尿の量が増加します(浸透圧利尿)。
その結果体が脱水状態になってしまうため、多く水を飲む必要が出てきます。
⇒猫が多飲多尿に!原因は?病気のサイン?おしっこや飲水量の目安は?
療法食を全く食べてくれない場合はどうしたらいい?
インスリン療法を開始したばかりで、まだ血糖値も安定していない、食欲も十分に回復していないというタイミングであれば無理な食事療法は避けた方がいいでしょう。
それよりは普段食べ慣れているフードを与え、1日に必要な食事量をとることを心がけた方がよいと考えます。
また、元気食欲がある状態の落ち着いている糖尿病の猫でも、突然食事内容を変えられると、食欲が落ちてしまうことがあります。
そのような場合は、普段食べ慣れているフードに少しずつ混ぜてあげ、徐々に給餌量を増やすといった工夫をしてみるといいでしょう。
どのくらいの飲水量だと多飲多尿と判断するの?
1日に体重1kgあたり45ml以上の水分を摂取している場合を「多飲」、また体重1kgあたり40ml以上の尿が出ていると「多尿」と判断します。
猫は砂で排尿することが多いので、飼い主の方は多尿に気付きずらいかと思いますので、もし糖尿病かも?と疑われたら「摂取している水分量」を測定してみるといいでしょう。
大まかな計算式になりますが、1日に飲水した水の量+与えている缶詰の重さ×0.8(食事からの水分量)を算出してみて下さい。
もしそれが体重あたり45mlを超えているようなら、多飲ということになります。
猫の場合、元々の飲水量が少ない動物ですので、糖尿病でないとしても「多飲=病気のサイン」と考えられるため、早めの動物病院受診をおすすめします。
糖尿病の末期症状ってどんな状態?
飼い主の方が糖尿病に気付かずに放置してしまったり、病院で治療を始めても血糖値のコントロールが上手くいかない場合、“糖尿病性ケトアシドーシス”という重篤な状態に陥ることがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスとは体の中に著しいインスリン不足が起こることによって引き起こされる病態で、糖尿病の中でも緊急治療が必要とされる急性疾患の一つです。
症状としては、嘔吐や腹痛、呼吸の異常、昏睡などの意識障害が見られます。
この状態は一刻も早い治療が必要で、放っておくと命に関わります。
同様の糖尿病の緊急疾患として、“高血糖性高浸透圧症候群”という病態もあり、こちらの方がより深刻な状態と言えます。
ですので、「糖尿病といっても症状も強くないし自然に治癒することもあるかもしれない」、「インスリン治療は手間だから食事療法でなんとかしよう」とのんびり構えているとこのようなややこしい事態を引き起こし最悪命を落としてしまうことがあるということを覚えていただいた方がいいでしょう。
⇒猫の糖尿病性ケトアシドーシスとは?原因や症状や治療方法も解説
糖尿病の治療費用の目安は?
日本獣医師会による“診療料金実態調査(平成27年)”では、残念ながら糖尿病の治療費用は調査対象外でしたので、以下に大まかな治療費用の目安をお答えしたいと思います。
詳細な金額を知りたい方はかかりつけの動物病院に遠慮無く相談されるといいでしょう。
元気食欲のある糖尿病の猫でも診断初期にはたくさんの検査を行いますので、血液検査、インスリン代、注射器代、療法食代などを含めると最低でも5〜10万程度はかかるでしょう。
その後血糖値が安定し通院の頻度も1ヵ月に1度程度になれば、概算で月に2万前後で済むようになると思います。
ただ、もし糖尿病性ケトアシドーシスのような重篤な状態であれば、最低でも2週間程度は入院治療が必要なことが多く、1日に何回も血液検査を行ったりするので治療費用は高額になります。
動物病院にもよりますが、総額で20万円を超えることも珍しくないでしょう。
また、糖尿病性ケトアシドーシスは昼夜を問わず集中治療が必要なことも多く、動物病院によっては大学病院などの二次診療施設に紹介する場合もあり、その場合はさらに高額になる可能性があります。
糖尿病は寛解する可能性のある病気なので積極的な治療が望ましいのですが、自宅での毎日の注射に加え、高額な治療費や頻繁な通院など、飼い主様のご負担が大きい病気といえます。
糖尿病を治療しない場合の余命は?
猫によってどの程度膵臓の機能が残されているのかが異なるため、診断時に余命を推し量るはできません。
ただ、通常の糖尿病であっても無治療のまま放置してしまうと、やがて糖尿病性ケトアシドーシスになり、その後昏睡状態へ陥り比較的短期間で命を落としてしまうことになります。
猫には人間のように血糖降下剤を使用することはできないの?
現時点では猫の糖尿病の治療において、血糖降下剤は無効もしくは有害とされています。
インスリン治療の代替治療としてはもちろん、補助治療にもおすすめされていません。
さいごに
猫の糖尿病は放っておくと命に関わる重大な病気で、早期に治療を開始すればインスリン治療から離脱(寛解)する可能性もあるため、積極的な治療が望ましいです。
ただ一方で、在宅でのインスリン治療やこまめな通院が必要であるため「飼い主の方への金銭的、時間的負担が大きい」という問題があります。
自宅で毎日のインスリンを2回注射しなければならないという技術を飼い主の方が習得しなければいけません。
注射自体は慣れれば簡単ですが、誤って人間に刺してしまってはいけませんし、始めは緊張するでしょう。
ちゃんと猫に投与できたかなどの不安もつきまといます。
血糖値が良好にコントロールされ猫の状態も安定すれば一安心できますが、インスリンの量や種類が決定するまでに時間がかかることも多いため、それまでの飼い主の方の心労たるや、相当なものになります。
実は、かくいう筆者の飼い猫が糖尿病でした(現在まで1年半寛解中)。
幸いなことに我が猫は数ヵ月程度で寛解までもっていくことができましたが、獣医師である筆者ですらこの期間は血糖値のコントロールに非常に苦労したため、「動物医療に関わったことのない一般の方がこれをこなすことはとても大変な労力だろう」と身をもって痛感しました。
いかにストレスなく糖尿病の猫を管理できるかは、信頼のおける獣医師との綿密なやりとりも重要だと個人的には感じています。
「動物病院に連れていきたいけど治療費はどのくらいかかるんだろう?」
「愛猫の病気を治してあげたいけど高額費用を支払う余裕がない…」
という飼い主さんはとても多いです。
動物病院で治療する場合、病気によっては10万円以上かかってしまう場合もあります。
動物病院で治療すれば助かった命は実に多いです。
経済的な問題で愛猫の寿命を縮めないためにも愛猫が元気なうちにペット保険に加入することが大事になります。
でも「ペット保険っていうけど、どういう保険があるの?」という疑問も出てくるかと思います。
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