猫の回虫症とは猫のお腹に寄生する寄生虫で、最も多くみられるものです。
獣医師にとっては日常茶飯事でも、お家の猫に寄生虫がいたとわかったら飼い主さんはびっくりしますよね。
人にも移るのかな?どうやってうつるのかな?どう対処したらいいのかな?という様々な疑問が湧いてくると思います。
そこで、今回は猫の回虫症について徹底的に解説していきたいと思います。
目次
猫の回虫症とは
線虫に属する「ネコ回虫」「小回虫」どちらかの寄生虫が、猫の腸内に寄生することによって、下痢や嘔吐などの症状を引き起こす病気のことです。
猫回虫は、1日に10万個も卵を生むほど繁殖力が強く、人間にも感染し、ひどい症状を引き起こすことがあります。
感染力は非常に強い寄生虫ですが、駆虫薬による投薬治療で完治できる病気です。
ネコ回虫とは
ネコ回虫は猫の腸に寄生する、線虫に属する寄生虫の一種です。
そうめんのような白くて長いミミズのような形で、3㎝~10㎝くらいの長さをしています。
犬にも回虫が寄生しますが、猫に寄生する猫回虫とは種類が異なり、猫回虫は基本的にはネコ科の動物の体の中でしか成長できません。
ネコ回虫は、野良猫の場合、ほとんどの猫が寄生されているといってよいくらい一般的にみられる寄生虫です。
回虫は非常に抵抗力が強く、土の中などで長い間生き続けて感染の機会を伺っています。
ネコ回虫の感染経路
経口感染
ネコ回虫の卵は感染した猫の糞に含まれているため、卵の入った糞を食べることで猫回虫症を発症してしまいます。
食糞でももちろん感染しますが、通常の猫はあまり食糞をしません。
多くは、猫同士のグルーミングで、足や肛門周りについた卵を無意識に食べてしまったり、糞の混ざった水たまりの水を飲んでしまった結果感染してしまうことが多いです。
また、糞を食べた鳥やネズミなどにネコ回虫の卵が含まれていた場合、それを食べてしまうことで間接的に感染してしまう事もあります。
経乳感染
回虫に感染した母猫が出産した場合、その乳汁に回虫の幼虫が入り込み、母乳を飲んだ子猫に感染するのが経乳感染です。
野良猫ではなく、ブリーダーやペットショップから来た子猫でも、時々回虫感染が見られるのは、母猫に潜伏感染をした回虫が母乳を介して子猫に感染するためだと考えられます。
子育て中の猫がいる場合は注意が必要です。
ネコ回虫のライフサイクル
気管支移行型と全身移行型の2タイプのライフサイクルがあります。
気管支移行型
糞や母乳から猫の体内に侵入したネコ回虫の卵は、猫の小腸内で孵化した後、小腸の壁を突き破り、血管内を移動しながら肺に到達します。
そこで幼虫まで成長すると、今度は食道や気管支に移動して、咳などで口に吐き戻され、再度猫に飲み込まれることでまた腸管内に戻っていきます。
腸管内でようやく成虫になり、親猫の摂取した栄養を横取りしながら、1日10万個近い卵を産み、猫の排泄物と共に猫の体外に出ていきます。
外に出た後は糞に混ざったまま誰かに取り込んでもらうのを待ちます。
実は、回虫が寄生した猫の排泄物に含まれる虫卵そのもの自体には感染力はありません。
しかし、猫の体外へ出た排泄物を放置しておくと、卵の中に幼虫が形成され、感染力を持つようになります。
だいたい2〜3週間でこのライフサイクルを繰り返します。
全身移行型
全身移行型の場合は、猫の小腸内で孵化した後、食道や気管支には移動せずに、そのまま血液に乗って拡散され、約1週間後に臓器や筋肉の中で被嚢幼虫と呼ばれる形になり、休眠状態に入ります。
母乳による感染はこの全身移行型の場合に起こります。
ネコ回虫の症状
犬に寄生するイヌ回虫は、ほとんどの場合、犬の体内で成虫まで成長することはありません。しかし、ネコ回虫の場合は、猫の体内で成虫まで成長してしまうため様々な症状を引き起こします。
一般的には、健康的な大人の猫が感染しても、症状が無い場合や軽症の場合がほとんどです。
しかし、免疫力の低い子猫などに大量に感染した場合には、発育不全や最悪死に至る重い症状を引き起こす可能性もあります。
主な症状としては、下痢、便秘、咳、嘔吐、腹痛、腹囲膨満、元気がない、食べても太らずに痩せてくる、毛がパサパサするなどが見られます。
猫の腸内に寄生するネコ回虫は、猫が食べたご飯の栄養分を横取りして成長するため、猫自身はどれだけ食べても痩せていきます。
咳とともに消化管にいた成虫が吐き出されることもあります。
また、便に成虫が排泄されることも良くみられます。
成虫自体には感染能力はなく、猫の体外に排泄された回虫は、乾燥して数時間で死んでしまいますので、他への感染などはそこまで気にしないで、ゴミ箱に捨ててしまって大丈夫です。
ネコ回虫は人間にも感染するのか?
「ネコ回虫」は人獣共通感染症でもあるため、人にも感染することがあります。
人に感染して発症した時の病名を「トキソカラ症」といいます。
人に侵入した場合、成虫にまで発育することはできず、幼虫のまま体内を移行して内臓や眼などに侵入し、幼虫移行症とよばれるさまざまな障害を引き起こします。
ネコ回虫の人間への感染経路
主に、感染猫の排泄物に混ざったネコ回虫の卵を口に含むことで起こります。
砂場で遊んだ後やガーデニングなどの作業後に、手を洗わずに何かを食べてしまった場合や、ニワトリなどのレバーの生食(肝臓に回虫の幼虫が潜んでいる可能性がある)をして感染するリスクもあります。
小さな子供がいる家では注意しなければいけません。
ネコ回虫に人間がかかった場合の症状
大人で幼虫移行症を発生するのは稀ですが、免疫力の弱い赤ちゃんや子供では症状が発症することがあります。
内臓移行型
発熱や全身の倦怠感、食欲不振などがあります。
幼虫が侵入する臓器によって症状が異なり、肝臓の腫れ、肺では咳やぜーぜーという喘鳴(ぜんめい)を、脳に達すればてんかん様発作の原因となると言われています。
眼移行型
主な症状としては網膜脈絡炎、ブドウ膜炎、網膜内腫瘤、硝子体混濁、網膜剥離による視力や視野障害が起こったり、霧視(むし)、飛蚊(ひぶん)症などがあります。
その他
神経型(しびれ、麻痺)や潜在型(アレルギーの原因)といった新しい型もあるとされています。
ネコ回虫にかかった人間の治療
人がトキソカラ病に感染した場合は、一般的に自然治癒すると言われていますが、体内の組織内に寄生した幼虫に対しては、確実な治療法は存在しません。
猫同様、駆虫薬を使用した治療を行うこともあります。
また、炎症が見られれば、ステロイドを使用します。
眼移行型の治療法はレーザーによる凝固法がおこなわれます。
免疫力の低い子供などが感染した場合は、抗寄生虫薬やステロイド薬で治療する必要があります。
ネコ回虫がうつらないための予防方法
人への感染を予防するには、外から帰宅したら必ず手洗いとうがいを行うことが大切です。
土に触れた時には、特に念入りに行ってください。
公園の砂場など野良猫が糞をしている可能性の高いところへは、なるべく立ち入らないようにするのも有効です。
猫回虫症になった時に併発する可能性のある病気
腸閉塞
猫の体内で成長したネコ回虫の成虫が、大量に腸の中にいることで腸管が詰まってしまい腸閉塞を併発することがあります。
しかし、基本的には成虫は排泄されたり、死滅した後は体内で溶けていきますので、発症することは非常に稀です。
腸閉塞の診断方法
便検査にて、猫回虫の卵を顕微鏡で確認するか、実際に糞便に出てきた成虫を確認します。
腸閉塞の治療方法
猫の体内に寄生しているネコ回虫を駆虫するために、駆虫薬を投与します。
下痢や嘔吐などの症状がみられる場合には、その症状に応じた治療も行います。
ネコ回虫は強い生命力を持っているだけでなく、1日に10万個もの卵を生む繁殖力も持っている寄生虫なので、猫の免疫力だけで自然治癒することはありません。
そのため、駆虫薬による治療が必ず必要です。
多頭飼いの家の場合は、1頭の猫に回虫が見られたら、その兄弟や同居の猫にも回虫がいる可能性が高く、同時に駆虫することをお勧めします。
基本的に、薬自体はそれほど副作用の強いものではないため、予防として定期的に使うことも多いです。
駆虫薬の種類には飲み薬、スポットオン製剤があります。
飲み薬
ドロンタール錠
プラジクアンテルとパモ酸ピランテルを含有し、猫に寄生する猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、猫条虫の駆除ができる飲み薬です。
体重500g以上、4週齢以上の子猫から使用できます。
副作用が比較的少なく、安心して投薬出来る薬です。
まれに、成長途中で体力や抵抗力が弱い子猫の場合、副作用として下痢、軟便、便秘などが症状として現れることがあります。
妊娠している猫には使用出来ません。
そのため、経乳感染を防止するためにも、妊娠前に駆虫を必ず行うようにしましょう。
特に投薬前後で食事制限をする必要はありません。
空腹時である必要もありません。
薬の飲ませ方
飲ませる事が困難なほど大きかった以前の薬よりも、薬の形状がかわり飲ませやすくはなったのですが、やはり難易度が高い薬です。
薬の飲ませ方をいくつかご紹介します。
①ご飯やおやつに混ぜて飲ませる
砕いたり、水で溶かすと苦みが出る場合がありますので、まずは錠剤のままご飯に混ぜてみてください。
時間がたつと溶けだしますので、なるべく食べる直前に混ぜるようにしましょう。
②直接口に入れて飲ませる
猫の頭を覆うように頭の後ろ側から手を当て、親指と人差し指、もしくは中指で頬骨を口角を少し引っ張るように持ちます。
手首をかえし、猫の口が上に向くようにして固定し、もう片方の指で下の歯を押し下げて口を広げ、一気に喉の奥の方にドロンタール錠を押し込みます。
コツとしてはオエっとなるくらい奥まで押し込むことです。
噛まれてしまうかなと心配になるかもしれませんが、しっかり口の中に手を入れてしまえば、猫は口を閉じることができないので噛むことはできません。
怖がって中途半端に指を抜こうとすると噛まれてしまいます。
ゴクンと飲み込むまで、喉を撫でてあげましょう。
③粉薬にして飲ませる方法
しっかりと飲み込むのを確認したにもかかわらず、胃から吐き戻して薬を吐いてしまう強者もいます。
その場合は錠剤をつぶして粉薬にしてみましょう。
粉薬にしてご飯やおやつに混ぜてあげると、一緒に食べてくれる可能性が高くなります。
自分で粉薬にできない場合は動物病院でお願いしてみましょう。
④粉薬をカプセルに入れて飲ませる
粉薬でもダメな場合は、粉薬をカプセルに詰めて飲ませる方法もあります。
苦みや味の変化を感じる前に丸呑みしてくれる場合があります。
動物病院でお願いすると、カプセルを分けてもらえる場合もありますので相談してみて下さい。
⑤粉薬を液状にして飲ませる
カプセルもダメな場合は、最終手段として、粉薬を水やお湯で溶いてシリンジ(注射器)に入れ飲ませてしまいましょう。
数滴ずつ口に入れて飲ませます。
どうしても口を開かない場合は頬をめくり、歯茎に垂らして飲ませましょう。
水に溶くと比較的苦みが出るため、基地に垂らしたと同時に尋常ではないくらい泡を吹く場合があります。
その場合は無理せず、水を飲ませて落ち着かせてください。
⑥動物病院でのませてもらう
幸いなことに、この薬は毎日飲ませなければいけないような薬ではありません。
処方してもらった日にはその場で獣医師に頼んで飲ませてもらうと確実です。
2.3週間後の再投与時も、処方された薬をもって病院に行けば飲ませてもらえます。
実際、ドロンタールは自力で飲ませるのは困難で、病院で飲ませてあげる事が多いです。
スポットオン製剤
スポットオン製剤は、薬を飲ませる苦労がなく、背中に付けるだけという手軽さが魅力です。
レボリューション
セラメクチンを含有し、フィラリア予防、ノミダニ駆除、猫回虫、猫の鉤虫症、ミミヒゼンダニの感染を防ぎます。
生後6週齢の猫から使用できます。
ブロードライン
フィプロニル、(S)-メトプレン、プラジクアンテル、エプリノメクチンを含有し、フィラリア予防、ノミダニ駆除、猫回虫、猫の鉤虫症、瓜実条虫、猫条虫、多包条虫の感染を防ぎます。
生後7週齢の猫から使用できます。
プロフェンダースポット
エモデプシドおよびプラジクアンテルを含有した、スポットタイプの猫用消化管内寄生虫駆除剤です。
猫に寄生する猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、猫条虫および多包条虫を駆除できる薬です。
生後7週齢、500g以上の子猫から投与できる、安全性の高い薬です。
アドボケート
フィラリア予防、ノミ駆除、回虫、ミミヒゼンダニの駆除を行います。
生後8週間以上で、体重は1kg以上の猫であれば使用できます。
猫回虫症の治療期間
猫回虫症の治療は一度の駆除だけでは不十分で、2〜3週間をあけて2回駆除を行います。
駆虫薬は成虫には有効ですが、血液の中を流れている幼虫や卵には効果がないことがあるため、ネコ回虫のライフサイクルである2〜3週間の期間ごとに治療することで確実に駆虫することができます。
猫回虫症の予防方法
生活環境を清潔に保つ
猫回虫の感染経路としては、母子感染以外であれば、基本的に便の中に排泄された卵が感染源となります。
そのため、猫の生活環境を清潔に保っていれば、糞便以外から猫回虫に感染するリスクは非常に低く、それほど神経質になる必要はありません。
ネコ回虫の卵は、外に出てすぐの頃は感染力がなく、14日ほどで成長して成熟卵になって初めて感染力を持つので、それまでに綺麗に掃除すれば口から侵入しても感染の心配はほとんどありません。
また、成虫自体には感染能力はなく、猫の体外に排泄された回虫は、乾燥して数時間で死んでしまいますので、怖がらなくて大丈夫です。
回虫を含めた一般的な寄生虫の卵は、通常の消毒薬では消毒できません。
熱湯を使うと回虫卵も死滅しますので、必ず熱湯で消毒するようにしてください。
定期的に検便をする
1回の検便ではネコ回虫に感染していることがわからない場合もあります。
成猫では感染していても、症状が出ないことがありますので、定期的に病院で検便をしてネコ回虫がいないかを確認するようにしましょう。
もし、多頭飼育の場合は、症状がないのに卵を排泄していると、全頭に感染する危険が高くなります。
また、定期的に検便をすることによって他の病気が見つかり、早期治療することができることもあるので健康診断は定期的に行いましょう。
完全室内飼いにする
猫が外にいける環境だと、野良猫と接触したり、ネコ回虫を含んだ糞を食べてしまったり、ネズミや鳥などを食べることで間接的に感染してしまうこともあるので、完全室内飼いがお勧めです。
単独飼いで完全室内飼いの猫は、猫回虫症を発症する可能性はかなり低くなります。
また、回虫だけでなく、それ以外の寄生虫やウイルスなどの感染リスクも、外に行けば出てきてしまいます。
回虫であれば駆虫できますが、猫エイズや白血病は一度感染してしまうと基本的に治すことはできませんし、交通事故のリスクもあります。
回虫の予防だけでなく、猫の命を守るために室内飼育をおすすめします。
駆虫薬を定期的に飲ませる
定期的に駆虫薬を使用することによってネコ回虫を駆虫することができるので予防にお勧めです。
また、発症すると突然死の恐れのあるフィラリアを予防するフィラリア予防薬には、ネコ回虫の駆虫効果も含まれていますので、フィラリアと一緒に予防するのもお勧めです。
全身移行型で休眠状態になっていたネコ回虫は、猫が妊娠6週目頃から動き出すため、妊娠前にしっかり駆虫しましょう。
市販の駆虫薬について
ホームセンターなどで購入できる「虫くだし」は回虫に効果がない場合もありますし、比較的弱い薬を使用しているため、効果に疑問が残ります。
回虫症の疑いがあれば、まずは動物病院を受診し、効果の証明されている薬を投与するようにしましょう。
どの病気であれ、自己判断で勝手に市販の薬を飲ませるのは危険です、絶対にやめてください。
さいごに
猫回虫症は寄生虫が原因で発症する病気の中では猫によくみられる病気ですが、しっかり治療すれば完治しますし、命に関わるようなことはほとんどありません。
しかし、子猫が発症してしまうと、重い症状を引き起こし、命を落とすこともあるので、しっかり予防して感染を防ぎましょう。
また、飼い猫から人間も感染することがあります。
そのため、猫の便や嘔吐物から猫回虫と思われる寄生虫が見られた場合は、速やかに動物病院に行き診察を受けることをおすすめします。
寄生虫と聞くと、不安になってしまうかもしれませんが、回虫症は簡単に治療ができる病気ですので落ち着いて正しい対処をしてくださいね。
「動物病院に連れていきたいけど治療費はどのくらいかかるんだろう?」
「愛猫の病気を治してあげたいけど高額費用を支払う余裕がない…」
という飼い主さんはとても多いです。
動物病院で治療する場合、病気によっては10万円以上かかってしまう場合もあります。
動物病院で治療すれば助かった命は実に多いです。
経済的な問題で愛猫の寿命を縮めないためにも愛猫が元気なうちにペット保険に加入することが大事になります。
でも「ペット保険っていうけど、どういう保険があるの?」という疑問も出てくるかと思います。
ペット保険の加入に迷った場合には、ペット保険の一括資料請求がおすすめです。
複数のペット保険の資料を比較することで「あなたと愛猫にとって一番ベストの保険が分かる」というメリットもあります。
利用は無料です。詳しくはこちらをご覧ください。
>>>ペット保険の一括資料請求を試しに見てみる(無料)<<<