病院の先生から「自宅で皮下点滴をしてみたら?」と言われ、びっくりしてネットで検索をしてこの記事にたどり着いて頂いた方が多いかもしれません。
自宅で点滴になんて本当にできるの?こわいなと思いますよね?
これを読めば一歩踏み出す勇気が持てると思います!
ぜひ読んでみてください。
目次
皮下点滴(=皮下輸液)とは?
猫は人間と比べ、皮膚の下の「皮下」と呼ばれる部分にだいぶ余裕があるので、その空間に水分を強制的に注入して水分補給のために行われる治療です。
様々な理由で点滴は行われますが、自宅で行う皮下点滴の一番の理由は慢性腎不全です。
皮下輸液をすることで、腎不全は治るわけではありませんが、体内に溜まっている毒素を少しでも早く多く排出することができます。
そのため、少しでも快適に生活できるようにするためには必要な治療になります。
また、腎臓の血流を増やすことで、腎臓の悪化を防ぐ効果もあります。
皮下点滴のメリットとデメリット
メリット
・静脈を使用しないので、静脈のダメージを温存でき、いざという時の血管を確保できる
・処置が短時間で行えるので、長時間病院に拘束されず、猫にストレスがかからない
・静脈点滴より費用が安い
デメリット
・静脈点滴より効果が低い
自宅で行う皮下点滴のメリットとデメリット
メリット
・通院をする必要がないので猫に最大のストレスを回避できる
・通院での処置よりさらに安価で行える
病院によっても異なりますが、おそらく1/3程度の費用でできます。
デメリット
・処置を飼い主が行わなければいけない
・まれに猫と飼い主の信頼関係が壊れることがある
・細かな状態の変化に対応できない
皮下点滴の効果は?何のために点滴するの?
腎不全の猫は腎臓の機能が弱まり、尿を濃縮できなくなるため、水分を飲んでも飲んでも体に保持することができず、体外に出て行ってしまい常に脱水状態になります。
また、症状が進行すると、毒素を排泄する能力も弱まるため、体に毒素が貯まってしまう尿毒症の状態になってしまいます。
尿毒症になると吐き気、食欲不振、最終的には意識障害、痙攣などから昏睡状態に陥り亡くなってしまいます。
腎不全の猫に輸液をする理由は、脱水を補正して、溜まっている毒素を出すための水分を補い、脱水症状での辛さや尿毒症からくる吐き気や体調の悪さなどを改善し、身体を楽にするためです。
また、循環血液量が上がり、腎臓の悪化スピードを遅らせることもできます。
点滴で腎不全を治すことはできません。
治らないのに点滴までして延命したくないという意見もあります。
しかし、皮下点滴は延命目的だけでなく、同じ生存期間でも、猫が少しでも吐き気や脱水からくるだるさを取り除き、快適に過ごせるように行う治療でもあります。
皮下輸液は食事の代わりにはならない!
点滴をしているから食べなくても安心というのは全くの間違いです。
腎不全の猫に使われる皮下輸液は生命維持や代謝に必要な水分・ビタミン・電解質を補給するためのもので、カロリーはありません。
わずかにブドウ糖が入っている輸液剤もありますが、栄養補給をするほどの量は含まれていません。
そのため、皮下点滴を行っていても、食事を食べさせる必要があります。
点滴の効果が出て、自力で食べられるようになる場合もありますし、自力での採食が難しい場合は、口からご飯を注入して食べさせる強制給仕などの必要もあります。
腎不全の猫は末期になると嘔吐や吐き気が強く現れますので、吐き気止めなどの使用も併用しながら食べられる方法を探す必要があります。
皮下点滴の量や頻度は?
体重や全身状態、腎不全の進行具合やCRE(クレアチニン)の数値、飲水量などによって判断します。
一度に大量に入れてしまうと、心臓が処理できる量を超えてしまうため、平均で1回150ml~300ml前後のことが多いです。
初期は週に1~2日などからスタートし、進行するにつれて毎日行う場合もあります。
自宅での輸液を勧められる場合は週に3.4回輸液が必要になっている場合が多いです。
状態によっては朝晩、1日に2回行う場合もあります。
準備
輸液を温める方法
輸液を温める方法は、電子レンジか湯銭の2つがあります。
湯銭で輸液を温める場合には、輸液が入る大きさのボールまたはバケツなどにお湯を張って湯銭するとしやすいです。
その時には、雑菌が心配なので、針を刺す部分がお湯にお湯から出した状態で温めることがおすすめです。
電子レンジで温める場合には、液の温まり具合が均一でないこともあるので、パックを軽くもんだり振ったりして温度を均一にしましょう。
輸液が少し冷たい場合はネコが嫌がる程度ですみますが、熱すぎる場合には皮膚内がやけどをする可能性があり危険なので注意が必要です。
輸液をする前に自分の肌に少しかけて確認し、ちょっと生暖かい程度の温かさにするのが目安です。
もし、熱すぎたら少し冷めるまで置いておいたり、水で冷やしてから輸液をしてください。
皮下点滴のやり方、手技
皮下輸液には2通りの方法があります。
1:シリンジで輸液パックから1回分ずつシリンジリに吸ってシリンジでネコの体内に入れる方法
2:輸液パックに針をつないで点滴の様に直接ネコの体内に入れる方法
シリンジで皮下輸液をする方法
1:猫の肩甲骨の下の辺りの皮膚を引っ張ってテントの様な三角形を作ります。
2:針を刺す部分をアルコール綿で消毒します。
3:三角形の空洞部分に、だいたいななめ45度ぐらいの角度で針を、針の穴が上から見て見える向きで刺すようにしましょう。
1~2cm刺すくらいが丁度いいです。
4:しっかりと針がさせたら、シリンジを引いてみます。
空気や血が入ってきたら、再度やり直しましょう。
5:シリンジを引いてもなにも起こらない場合には、正しく針が入っているので、液を入れていきます。
堅くて押せない場合には針先がどこかに刺さっている可能性があるのでやり直してください。
6:終わったら、針を抜いて、刺していたところを軽く押さえ、液が漏れてこないか確認します。
輸液パックから直接皮下輸液をする方法
1:猫の肩甲骨の下の辺りの皮膚を引っ張ってテントの様な三角形を作ります。
2:三角形の空洞部分にだいたいななめ45度ぐらいの角度で針を1~2㎝刺します。
3:皮膚をつかんでいる手は、はなして大丈夫です。
4:針が抜けないように利き手で針を軽く押さえながら、ラインのつまみを「開(open)」にします。
点滴が落ちない場合は、筋肉や皮膚などに当たってる可能性があるので、針先が入っている皮膚を持ち上げて軽く左右に動かしてみてください。
5:終わったらラインのつまみを「閉(close)」にします。
針を抜いて、針が刺さっていた部分を軽く押さえ続けて輸液のもれを防ぎます。
自宅でできるネコの輸液やり方:動画
皮下点滴を行う際の注意点やコツ
注意点
まず前提として、皮下輸液を行う時には清潔な環境で滅菌済の医療器具を使い、できるだけ無菌状態で行うよう努力する必要があります。
・輸液の準備をする前に手を石鹸と流水でしっかりと洗いましょう。
・針の先や接続部分は手で直接触らないようにしましょう。
・使い終わった金属製の針は病院で医療廃棄を行う必要がありますので捨てずに回収してもらいましょう。
・使い終わった点滴バッグ・ライン・注射器などは市町村で決められている在宅医療廃棄物のルールに従って捨てる必要がありますので、各自で問い合わせを行いましょう。
・点滴ラインなど接続部位は手で触ったり、空気に触れるほど汚染の原因になる可能性があるので素早く、差し替え作業などは最小限でおこないます。
・輸液の量が多いかどうか獣医さんが判断する目安にもなるので、輸液後にどれぐらいの時間で吸収されたかを記録しておくことがおすすめです。
・一番大切なことになりますが、呼吸が苦しそうなそぶりや、むくみが出てきた場合には早めに相談するようにしてください。
いつも入れている同じ量を入れていたとしても、猫の体調次第では水分を処理することができず、過剰輸液になってしまうこともあります。
すると、過剰な水分は肺に漏れ出てきてしまう場合がありますので、点滴後しばらくはよく様子を見てあげてください。
・何回かに1回はかならず病院で検査や診察をしてもらってください。
状態の変化に伴って輸液量を変更したり、静脈点滴に切り替えたりする必要がありますので、ずっと同じ量を家で点滴し続ければいいというわけではありません。
定期的なモニターが必要です。
・絶対に自己判断で輸液量の増減や、回数の変更を行わないでください。
量を入れれば入れるだけ効果が上がると思われがちですが過剰な水分は逆に猫に大きな負担を与えますので絶対にやめてください。
・太い針を使用しますので、自分に刺さらないようによく注意してください。
皮下輸液のコツ
・たるんだ皮に針は刺さらないので、できる限り針を刺さないほうの手で皮膚をぴんとするように引っ張り上げると針がささりやすくなります。
・針の角度はななめ45度で、思い切って体めがけて刺すイメージです。
こわがって体と平行に刺すと、皮下に入らず皮膚に針先が当たって入らなかったり、皮膚を貫通して液がもれてしまいます。
・実は皮下点滴の一番のコツは保定(動物をおさえる)です。
これさえできれば皮下点滴はとても簡単です。
洗濯ネットに体を入れて顔だけ出した状態で行ったり、バスタオルなどで、体全体をくるんで、抱っこしてもよいです。
自宅でやる場合、はじめはなるべく保定者と点滴する人と、二人でやるとやりやすいです。
・ネコが逃げにくいように机などの台で行うとやりやすいです。
・先にすべて準備をし、あとは針を刺すだけの状態にしてから猫をつかまえるようにします。
・輸液には、ある程度時間がかかるので、猫が安定して座っていられる体勢に落ち着かせます。
場合によっては抱っこでもよいです。
・針を刺すときには、針を刺したい場所より数センチ手前を利き手と反対の手の親指と人差し指でつまみあげ、△の部分を作るようにします。
・猫に刺す前に針がどこかに触れた場合には、アルコール綿で再度消毒して、完全に乾いてから使うようにします。
・猫の皮膚は想像よりも硬いので、覚悟を決めて刺しましょう!
皮膚の直前でためらうと、猫が余計痛がったり怖い思いをしますので勢いよくさします。
・冷たいままの輸液を入れるとネコの身体が冷えてしまったり、嫌がる原因になりますので、温めてあげましょう。
ほとんどの猫は暖かくて気持ちがよくなりますので、なれてくるとおとなしく処置をさせてくれるようになることが多いです。
夏場は特に温めなくても良いですが、その時々の状況や猫によって判断・調整をしてください。
皮下点滴をするときのちょっとした疑問に答えます
・チューブに少量空気が入ってしまった
→少量であれば体が吸収するので問題ありません
・一度針を刺したら貫通してしまった
→落ち着いて針を少し引いてみてください。
それでもだめなら、一度抜いて刺しなおしましょう。
その際針の先がガタガタになり、刺すときの痛みになりますので、新しい針に付け替えましょう。
・前回の点滴がまだ残っている
→水分過剰は心臓に負担がかかりますので、点滴をせず獣医師の指示を仰いでください
・点滴した後、足がむくんだ!
→本当のむくみだと問題ですが、背中に入れた水分は重力とともに足に落ちてきて溜まることがあります。
数時間後に吸収していれば問題ないでしょう。
むくみの場合は輸液を中止し病院に連れて行ってください
・点滴後に足を引きずっている
→同様に、足に点滴が落ちてきていることで猫が違和感を感じています。
吸収した後に再度歩行状態を確認してみてください。
特に点滴にビタミン剤などを混入している場合、染みて痛がることがありますが、これも時間とともに改善することが多いです。
・点滴後ハーハー苦しそう
→水分過剰になってしまっている可能性があります。一刻も早く病院に連れて行ってください。
・全量入れるまでじっとできない
→皮下点滴は早いスピードで入れても大丈夫です。
点滴パックを手で押したりして時間短縮をしましょう
・全量入れる前に逃げてしまった
→もう一度残りを点滴してもよいですが、無理せずその日は終わりしても大丈夫です。
可能なら時間をあけて残りの分をトライしてみてください。
絶対にこの量を入れなければという考え方は、飼い主のストレスになります。
ある日は少量になってしまっても、「すこしでも入ったからいいか。」と言う位リラックスして望んでください。
さいごに
この記事を読んでくださる方は、自宅での皮下点滴に挑戦しようとしている方でしょうか?
最初は針を刺すこと自体怖いと思いますし、猫も嫌がって逃げてしまう事が多く、こんなに嫌がるのにやりたくない…。と心が折れてしまうかもしれません。
しかし、飼い主が怖がったりせず、安定した気持ちで点滴をすると、猫もリラックスして点滴をさせてくれるようになり、温かい輸液が気持ちいいのか、点滴の後に体が楽になるのがわかってくるのか、最終的には点滴の準備をすると、処置をするテーブルに自分で乗ってきて「はい、お願いね。」といわんばかりに座って体勢を整える猫ちゃんまでいるのです。
点滴を自宅でするなんて、とてもハードルが高いと思いますが、ほとんどの飼い主さんは、いざやり始めてみると「思ったより簡単で、病院に行かなくていいからとても楽だし、猫もストレスがかからないから嬉しい。」と言っていただけることがほとんどです。
動物病院はいつも待ち時間が長いですし、往復だけでも大変です。
費用面からも点滴の間隔があいてしまうことが多いのですが、自宅での皮下点滴はいいことが沢山あります!
腎不全という治らない病気であっても、「自分がやれることをしてあげられた」と満足してもらえることがとても多いのです。
これから皮下点滴を自宅でする方の心がすこしでも軽くなればうれしいです。
猫の為にすこし勇気を出して頑張ってみてくださいね。
最期に付け加えますが、ついつい自宅で点滴ができるようになると病院への通院がおっくうになりがちですが、点滴は全身状態によって頻度や量を調節しなければ逆に猫の負担になる場合があります。
かならず獣医師の指示通りに定期的に診察を受けてくださいね。
「動物病院に連れていきたいけど治療費はどのくらいかかるんだろう?」
「愛猫の病気を治してあげたいけど高額費用を支払う余裕がない…」
という飼い主さんはとても多いです。
動物病院で治療する場合、病気によっては10万円以上かかってしまう場合もあります。
動物病院で治療すれば助かった命は実に多いです。
経済的な問題で愛猫の寿命を縮めないためにも愛猫が元気なうちにペット保険に加入することが大事になります。
でも「ペット保険っていうけど、どういう保険があるの?」という疑問も出てくるかと思います。
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