「猫が慢性腎不全と診断されたけど、腎臓の機能が回復することはないの?」
「慢性腎不全の猫ってどのくらい生きられるの?」
「猫は元気だけど、慢性腎不全って治療しないといけないの?」
このような疑問はありませんか?
腎不全とは何らかの原因によって腎臓の機能が低下した状態で、短時間で腎臓の機能が低下してしまうものを“急性腎不全”、長い時間をかけて腎臓機能が低下してしまうものを“慢性腎不全”と言います。
その中でも慢性腎不全は高齢猫では非常によく見られる病気なのですが、ひとことで慢性腎不全といってもステージによって症状や治療法、余命は変わってきます。
そこで今回は「猫の慢性腎不全」にスポットを当てて、最新の情報を盛り込みながら詳しく解説したいと思います。
目次
腎臓の働きとは?
腎臓は猫の背中側に位置するソラマメ型の臓器で、左右1つずつあります。
まずは腎臓とはどんな働きをしている臓器なのか、解説したいと思います。
尿を作る
腎臓の働きで最も重要なもの「尿を作ること」です。
血液中には体で発生した不要な老廃物や必要な栄養成分がたくさん流れているのですが、“濾過”と“再吸収”という行程を経て、不要なものと必要なものを選り分けて尿を作ることができる臓器は腎臓ただ一つです。
血圧を調節する
腎臓では体の中の水分と塩分の濃度を察知して排泄量を調整したり、血圧を維持するホルモンを分泌することで、血圧をコントロールすることができます。
猫も腎不全が進むと高血圧症を引き起こすことがあります。
赤血球を作る
腎臓には骨髄に作用して赤血球をつくる造血ホルモンである“エイスロポエチン”を分泌しています。
腎不全になるとエリスロポエチンの分泌が減少し、貧血が進行してくることがあります。
猫の慢性腎不全の原因とは?
猫が慢性腎不全を発症してしまう原因について解説します。
急性腎不全の後遺症
急性腎不全は、薬物中毒や感染症、結石による尿路閉塞で引き起こされる病気で、急性腎不全になると腎臓で尿を作る働きが低下してしまうため、尿の量が著しく少なくなってしまう状態(無尿、乏尿)に陥ります。
また、急激に元気食欲が低下し、嘔吐や下痢、痙攣といった重篤な症状が表れます。
この病気は適切な治療をしても亡くなったり、完全には腎臓の機能が回復せず慢性腎不全に移行することがあります。
多発性嚢胞腎
“多発性嚢胞腎”とは腎臓にぶどうの房のように液体がたまった袋が無数にできることによって正常な腎臓の構造が破壊されていってしまう遺伝性の腎臓病で、中齢(平均して7歳程度)の猫で慢性腎不全の症状が強く表れるようになります。
特にペルシャネコやアメリカンショートヘアー、スコティッシュフォールドなどに見られると言われています。
原因不明
上記の2つ以外の原因で高齢の猫に見られる一般的な慢性腎不全の多くは原因不明で、なぜ発症してしまうのか分からないことが多いと言われています。
猫の慢性腎不全の診断方法とは?
慢性腎不全の診断方法について解説します。
血液検査
全血球検査
全血球検査とは赤血球、白血球、血小板という血液の細胞成分を調べる検査です。
腎臓では赤血球を作るホルモンが分泌されるため、慢性腎不全が進行すると貧血が見られる場合があります。
血液生化学検査
血液検査の中でも、BUN(ビーユーエヌ、尿素窒素)やCRE(クレアチニン)は腎臓の機能を反映している検査項目になり、この2項目が基準値よりも上昇していると腎機能の低下を疑います。
また腎機能の低下が起こると、カリウムやリンといったミネラルの値が上昇することがあります。
参照:猫が腎不全に?クレアチニンとBUNの数値は何を表してるの?
SDMA
SDMA(エスディーエムエー)とは、2016年から日本で測定することができるようになった新しい猫の腎機能マーカーのことです。
CREは腎機能が75%程度失われるまで上昇することがありませんが、SDMAは25〜40%程度失われると上昇することが分かっており、従来よりも早期に慢性腎不全を診断できる画期的な検査項目として注目されています。
尿検査
尿比重
尿比重とは尿の濃さのことで、慢性腎不全になると尿が薄くなります。
尿蛋白
尿中のタンパク質が見られるかどうかを確認します。
慢性腎不全になり腎臓の機能が低下すると、体に必要なタンパク質が尿中に検出されてしまうことがあります。
血圧測定
腎臓は血圧を調節するホルモンを分泌していますが、慢性腎不全になると高血圧が引き起こされることがあります。
レントゲン検査や超音波検査
腎臓の形体を確認するため、レントゲン検査や超音波検査を行います。
慢性腎不全は正常な腎臓に比べて小さくなっていることが多く“萎縮腎”と呼ばれます。
また、多発性嚢胞腎は超音波検査を行わないと診断することができません。
猫の慢性腎不全のステージとは?症状や治療法について
猫の慢性腎不全はCREという数値によって4つのステージと、血圧と尿中のタンパク質の量によって更に細かいサブステージに分類され、このステージによって症状や推奨される治療法が変わってきます。
ここではガイドラインに沿って症状や治療法について解説します。
ステージ1(初期)
検査結果
血液検査でクレアチニン値は1.6mg/dl未満と正常値内ですが、尿検査で尿の比重が低下している(薄い尿がでている)、超音波検査で腎臓の形がいびつになっている状態です。
症状
多飲多尿(水をよく飲んで、薄い尿を大量にする)という以外の症状はほとんどありません。
治療法
高血圧やタンパク尿でなければ無治療で経過観察し、定期検査を行っていきます。
※ガイドラインではこのように示されていますが、ステージ2への進行は時間の問題なので腎臓用の療法食開始をおすすめされることがあります。
参照:猫の慢性腎不全の初期症状とは?悪化させないためにはどうしたらいい?
ステージ2
検査結果
血液検査でクレアチニン値は1.6〜2.8mg/dl未満と正常値よりやや高い値を示します。
症状
多飲多尿以外の症状はほとんどない、もしくはあっても軽度です。
治療法
腎臓病用の療法食の開始が推奨されています。
また、もし高血圧やタンパク尿がみられるようであればACE阻害剤などの降圧剤の治療を開始します。
ステージ3
検査結果
血液検査でクレアチニン値は2.9〜5.0mg/dl未満、貧血やBUNの高値などの異常が見られるようになります。
症状
多飲多尿以外にも、嘔吐や食欲不振といった症状が見られてきます。
治療法
ステージ2の治療に加え、脱水の程度に応じて点滴、必要に応じて貧血の治療(ヒト用エリスロポエチン製剤の投与等)、制吐剤の使用を行います。
ステージ4(末期)
検査結果
血液検査でクレアチニン値は5.0mg/dl以上、BUNの重度の高値などの異常が見られるようになります。
症状
いわゆる“尿毒症”という状態になり、元気食欲不振や頻回の嘔吐、むくみ、意識の低下、けいれんといった症状が出てくるようになります。
さらに腎臓が機能しなくなると尿が作られなくなり、“乏尿(ぼうにょう)”や“無尿(むにょう)”という状態になります。
参照:猫の尿毒症の症状や原因、治療法とは?末期症状や余命も解説
治療法
ステージ3の治療に加え、強制的な栄養補給、透析や腎移植を検討する必要があります。
※ガイドライン上では「透析や腎移植を検討」と示されていますが、実施している動物病院は少なく、現実的にはハードルが高い治療法になります。
慢性腎不全の猫の生存期間(余命)について
飼い主の方が一番気になるのが、ステージ別の生存期間(余命)ではないでしょうか?
慢性腎不全と診断された猫の飼い主様から「あとどのくらい生きられますか?」と聞かれることも多いですが、どのくらい積極的な治療するか、その間に他の病気になってしまうかどうかで大きく変わります。
ある海外での研究結果では、
・ステージ2:生存期間の平均が約3年(最長が約8年)
・ステージ3:生存期間の平均が約2年(最長が約6年)
・ステージ4:生存期間の平均が約3ヵ月(最長が約5年)
という結果が報告されています。
同じステージでも随分と幅があるのがお分かりかと思います。
この結果から言えることは、ステージ4では極端に生存期間が短いですが、ステージ2、3では年単位で生きてくれることがほとんど、ということです。
猫の1年は、我々人間の4年に相当します。
ですので、慢性腎不全と診断されたからといって不必要に悲観的になることはなく、ステージに応じて早期に治療を行うことで、より長く飼い猫と一緒に過ごすことができるとお考えいただければと思います。
参照:猫の腎不全のステージとは?ステージ別の余命や生存率はどのくらいなの?
参照:獣医師解説。猫の慢性腎不全の最期の延命治療や看取り方について
参照:慢性腎不全の猫の治療を継続する、しないの判断はどうしたらいい?
慢性腎不全の猫の食事療法について
腎臓用の療法食は、タンパク質やリン、塩分などを制限しているため、腎臓に負担が少なくなります。
どのステージの慢性腎不全でも食事療法はできるだけ早期に始めたい対処法ですので、ピックアップして詳しく解説していきたいと思います。
療法食の種類について
グルメな猫に対応すべく、ペットフードメーカーもいろいろな種類の腎臓用療法食を販売しています。
同じフードではすぐに飽きてしまう猫なら、いろいろなメーカーのものをローテーションで与えるというのも一つの方法です。
療法食はAmazonなどの通販で購入することもできますし、少しだけ試してみたい方は動物病院でサンプルを貰ったり、バラ売りで購入することもできるので相談してみましょう。
腎臓サポート(ロイヤルカナン)
ドライフードだけで3種類(腎臓サポート、腎臓サポートスペシャル、腎臓サポートセレクション)、パウチタイプのウェットフードで2種類(腎臓サポート、腎臓サポート フィッシュテイスト)があります。
k/d(ヒルズコルゲート)
ドライフードは1種類(k/d)のみですが、缶詰タイプのウェットフードで4種類(チキン、ツナ、チキン&野菜入りシチュー、ツナ&野菜入りシチュー)もあります。
キドニーケア(エランコジャパン)
ドライフード2種類(キドニーケア チキンテイスト、フィッシュテイスト)があります。
粒の形が“たわら型”と独特なのですが、非常に人気のある商品です。
療法食の与え方
普段食べているものから一気に切り替えても問題ありませんが、新しいフードに警戒するようなら、普段与えているものに少しずつ混ぜて与えるといいでしょう。
食欲がない時の対処法
慢性腎不全も末期になると、猫の食欲が落ちてくることがよくあります。
このような時は、動物病院で血液検査を受け適切な治療を受けることも大切ですが、ご自宅で試していただきたい対処法をご紹介したいと思います。
食事を温める
ウェットフードをあげているなら、電子レンジで少し温めてあげるとニオイが強くなるので、食欲を刺激することができます。
一般食に切り替える
食事をとらない時間が長くなると体力も落ちますし、猫は絶食の期間が長いと「肝リピドーシス」と言われる肝臓病になることがあります。
療法食を食べなくなってしまった場合は一般食でもいいので嗜好性の高いフードに切り替えましょう。
また極端に食べる量が少なくなってしまった場合は、少量でも栄養価が高い缶詰フード(ロイヤルカナン社の退院サポート缶、ヒルズコルゲート社のa/d缶)を与えてみるのもいいでしょう。
強制的に給餌する
上記の方法をとっても自力で食事をとることが困難になってきてしまった場合は“強制給餌”という方法があります。
強制給餌には口から“シリンジ”と呼ばれる注射器で流動食を少しずつ与える方法と、“経鼻カテーテル”といって鼻にチューブを通してそこから喉の奥に食事を流しこむという方法があります。
シリンジ法のメリットはやり方が単純なのでご自宅でも実施しやすいという点にあります。
一方デメリットは、食べたくないものを無理矢理口に入れるため、猫が口から吐き出してしまう、嫌がって抵抗することが多いことです。
そして経鼻カテーテル法のメリットはある程度のボリュームを入れても猫が口から吐き出すことが少ない点で、デメリットとしては経鼻カテーテルを設置してもくしゃみをしたり、猫が自分の手で抜いてしまうことが多く、食事のたびに入れ直しが必要であることが多いという点です。
いずれの方法も、獣医師や動物看護師から直接指導が必要になりますので、かかりつけの動物病院でご相談されることをおすすめ致します。
慢性腎不全の猫の日常生活の注意点とは?
猫が慢性腎不全と診断されたら、飼い主の方はどんなことに気をつけたらいいのでしょうか?
日常生活での注意点について解説していきましょう。
十分な飲水を
脱水に陥ると腎不全をさらに悪化させてしまいますので、いつでも新鮮な水を飲めるように、ご自宅に複数の水飲み場を用意するようにしましょう。
また若い猫では特に尿路結石の発症リスクを高め、尿路閉塞から急性腎不全を引き起こすことがあります。
もともと水分をとる量が少ない猫は、ウェットフードを与えるようにしましょう。
トイレを清潔に
猫はきれい好きなので、少しでもトイレが汚れていると排尿を我慢する猫もいます。
慢性腎不全になると尿が薄くなるため、細菌性膀胱炎のリスクが高くなります。
トイレは複数設置し(目安は猫の飼育数プラス1個)、汚れたらこまめに掃除してあげるとよいでしょう。
環境の変化に注意
慢性腎不全になると健康な時に比べ、急激な環境の変化で体調を崩すことがありますので、できるだけ生活環境を変えないようにしましょう。
猫を多頭飼育している場合は、病気の猫が寝やすい位置にお気に入りの寝床を確保するということも大切です。
慢性腎不全の猫にかかる費用の目安について
動物病院は自由診療ですが、日本獣医師会による“診療料金実態調査(平成27年)”を元に慢性腎不全の検査費用、治療費用についてお答えしたいと思います。
詳細な金額を知りたい方はかかりつけの動物病院に相談してみて下さいね。
検査費用
血液検査を行う場合にかかる費用ですが、採血料の平均が約700円、全血球検査が約1800円、生化学検査が約4600円となっています。
尿検査の平均は約1400円ですが、尿の採取方法によってさらに1000円〜1500円追加になります。
血圧測定の平均は約1100円で、レントゲン検査の平均は約4000円、腹部超音波検査の平均は3200円となっています。
まとめると、初診時の検査費用としては2〜3万円程度かかるものとお心積もり頂ければと思います。
なお、定期検診であれば検査項目はグッと絞られますので、数千円程度で済むことも多いでしょう。
治療費用
慢性腎不全の治療費用で大きく占めるのが点滴(輸液)費用で、1回の皮下点滴の平均が約2000円、静脈点滴が約3000円となっています。
もし降圧剤などの内服薬を処方されるなら、薬剤の種類にもよりますが月5000円程度はかかるものと思って頂いていいでしょう。
さいごに
飼い主の方にとっては“慢性腎不全”という言葉の方が馴染みがあるかと思いますが、実はガイドライン上では“慢性腎臓病”と表現されています。
猫では3頭に1頭、犬では10頭に1頭が一生のうちに慢性腎臓病を発症すると言われており、猫では主要な死因の一つです。
猫も10歳を超えたら1年に1回は健康診断を受けることをおすすめ致します。
「動物病院に連れていきたいけど治療費はどのくらいかかるんだろう?」
「愛猫の病気を治してあげたいけど高額費用を支払う余裕がない…」
という飼い主さんはとても多いです。
動物病院で治療する場合、病気によっては10万円以上かかってしまう場合もあります。
動物病院で治療すれば助かった命は実に多いです。
経済的な問題で愛猫の寿命を縮めないためにも愛猫が元気なうちにペット保険に加入することが大事になります。
でも「ペット保険っていうけど、どういう保険があるの?」という疑問も出てくるかと思います。
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