猫の特発性膀胱炎という病気を知っていますか?
あまり聞きなれない病気で、普通の膀胱炎と何が違うの?と疑問に思いますよね。
特発性膀胱炎は通常の膀胱炎とは若干性質が異なります。
実際は、この特発性膀胱炎は、他の膀胱炎よりも猫において非常に多く発生している病気です。
どのような病気なのか?何が原因で起こるのか?治療法はあるのか?など、様々な疑問にお答えしていきたいと思います。
目次
特発性膀胱炎(FIC:Feline Idiopathic Cystitis)とは?
特発性というのは、原因不明という意味で、原因がわからないけれども、尿を一時的に貯めておく膀胱に炎症が起こってしまうことで発生する病気です。
2〜6歳位の若齢から中齢の猫で発症しやすい病気です。
特にオス猫で発生しやすく、肥満の純血種に多いと考えられています。
尿検査を行っても結晶や細菌、異常な細胞が見つからないにも関わらず、頻尿、血尿などの膀胱炎症状を示すやっかいな病気です。
尿路結石、細菌性膀胱炎、特発性膀胱、膀胱腫瘍など下部尿路の病気全般を指して、FLUTD(猫の下部尿路疾患)と称されていますが、FLUTDの中でもこの特発性膀胱炎は2/3を占めているといわれるくらい多く発生しています。
1週間以内に自然治癒することも多く、何度も再発を繰り返すこともあります。
人間の間質性膀胱炎と共通点が多く、猫間質性膀胱炎とも呼ばれることがあります。
特発性膀胱炎の原因
はっきりした原因は不明ですが、猫自身の性格の問題や環境からのストレスが複雑に絡んで発症すると考えられています。
膀胱の内側の膜の異常
膀胱は内側からGAG(グリコサミノグリカン)層、尿路上皮、筋層の3つの層から成っています。
GAG層は様々な物質を濃縮した尿の刺激から膀胱を守る役割があります。
特発性膀胱炎の猫ではこのGAG層が不十分で、その結果尿の刺激が神経に伝わりやすく、尿が溜まっていないにも関わらず尿意を感じ、頻繁にトイレに行くようになります。
神経伝達物質の影響
膀胱の神経は尿による刺激を受けるだけでなく、神経伝達物質(サブスタンスPなど)によっても刺激されます。
神経伝達物質が肥満細胞に働きかけるとヒスタミンが放出され、ヒスタミンの作用により炎症が悪化し痛み、出血を増悪させます。
また特発性膀胱炎の猫では膀胱自体の神経伝達物質の受容体も増えておりより影響が大きくなります。
ストレス
よくあるストレス要因としては、家族が増えた(または減った)、引っ越しや部屋の模様替えをした、ホテルに預けた、大きな声で怒った、遊ぶ時間が減った、トイレが新しいものに変わった、体のどこかに痛みがある、来客がきた、不快なにおいがしたなどの身の回りの環境変化がよく見られる原因になります。
猫はきれい好きな動物であるため、トイレ環境の変化にも敏感です。
トイレの数が少ない、いつも汚れている、うるさい場所にトイレが置いてあると尿を我慢するようになり、膀胱炎を引き起こしてしまうこともあります。
ストレスに対する反応の乱れ(交感神経系)
音に対する反応が強い猫は特発性膀胱炎になりやすいと報告されているように、他の猫であれば許容できる範囲のストレスでも特発性膀胱炎になってしまう猫もいます。
ストレスを感じると脳の視床下部が刺激され、カテコールアミンと副腎皮質ホルモンが分泌され、視床下部に作用し、各部位の働きを抑えています。(ネガティブ フィードバック)。
しかし特発性膀胱炎の猫では副腎皮質ホルモンの量が少なく、脳幹や視床下部への抑制が弱く、ストレスに対してうまく対応できません。
結果的にカテコールアミンの量が増えて、軽度のストレスでも膀胱炎を起こしやすくなります。
特発性膀胱炎の症状
主な症状は、頻尿、トイレ以外の場所で排尿してしまう、排尿時の痛み、排尿時に鳴く、尿の1回量が少ない、血尿などです。
陰部の違和感からしきりに陰部を舐めたりといった行動も見られます。
これらの症状は特発性膀胱炎以外での膀胱炎でも見られるため症状からは見分けがつきません。
オス猫では膀胱炎時に炎症細胞や上皮細胞が大量にでることで尿道詮子が形成されやすくなり、尿道に詰まると全く排尿ができなくなることがあります(尿閉:にょうへい)。
また、メス猫でも激しい炎症で膀胱の筋肉が緊張すると尿が出せなくなり、尿閉状態に陥ることもあります。
特発性膀胱炎の検査
これといった原因がないため、特発性膀胱炎を診断するには、他の膀胱炎を起こす病気(ポリープや腫瘍、結石、細菌)が無いことを証明する必要があります(除外診断)。
尿検査
ペーパー試験
尿たんぱく、潜血、尿PHを調べる検査です。
尿沈渣検査
顕微鏡で尿中の細菌や結晶を確認する検査です。
尿細菌培養
尿沈渣検査で発見できない細菌を確認します。
細菌がいた場合は、どの抗生物質が効くのか調べる感受性試験を行います。
超音波検査
膀胱、尿道の形に異常がないか、結石やポリープ、腫瘍の有無を確認します。
レントゲン検査
造影検査を含めた尿路の確認を行います。
尿結石はレントゲン検査で確認しやすいです。
膀胱鏡検査
膀胱の粘膜での出血が確認でき、GAG(グリコサミノグリカン)と言われる成分が少なくなっています。
特発性膀胱炎の治療
特発性膀胱炎は原因が特定できないため、難治性、慢性疾患と言われることがあり、治療が難しい特徴があります。
基本的には対症療法が行われ、出ている症状を緩和していくことを目的とした治療になります。
ストレス要因の除去
考えられるストレスの原因を排除することが大切です。
とはいっても、全部のストレス原因を除去するというのは不可能でしょう。
引っ越しや近所の工事の騒音を中止することはできないからです。
ペットホテルに預けてリスクから回避しようとしても、預けられることが逆にストレスになる場合もありますので、何とも悩ましい病気です。
一番猫の気持ちを理解できる飼い主さんが、それぞれの猫にとってどのような方法が一番猫にストレスがかからないかを考えてあげる必要があります。
ストレス要因を完全に除去できなければ、室内飼いであっても退屈せずにストレスを発散できるように運動できる環境にしてあげたり、猫の居心地のよい隠れ場所を作ったり、ストレス発散のためにキャットタワーや爪研ぎ、おもちゃを与えたりすることも重要です。
猫とのコミュニケーションの時間を作ってあげて満足させてあげましょう。
飲水量を増やす
飲水量を増やすことで、尿の成分を薄めることができます。
その結果、膀胱の内膜への刺激が弱まり、痛みや炎症が治まります。
猫は元々水分をあまりとらない動物ですので、飲ませるといっても勝手に飲んでくれるわけではあまりせん。
ドライフードを水でふやかしたり、ウェットフードに切り替える、いつでも新鮮できれいな水を用意する、水飲み場を増やすなど工夫をしてあげてください。
蛇口から流れる水を飲むのが好きな猫には、ウォーターファウンテンなどを試してみてもよいかも知れません。
筆者は毎日ドライフードの他にウェットフードをおやつとしてあげているので、ウェットフードに水を加えて水分を取らせるようにしています。
投薬治療
痛み止め
特発性膀胱炎は痛みを伴う病気です。
猫は痛くても小さなサインしか出さないので、排尿時に鳴いている場合はかなりの痛みがあると考えられます。
治療の開始期または症状が強く出ている時はまず痛みを軽減させてあげることが回復への近道になります。
メタカム、オンシオールなどのNSAIDS (非ステロイド性抗炎症薬)や、ブプレノルフィン、フェンタニルパッチ、ブトルファノールなどのオピオイド系の痛み止めが挙げられます。
抗不安薬
いくつかの抗不安薬が特発性膀胱炎の症状改善に効果があると報告されています。
ただ、これらの薬のみでの完治は難しく、補助的なものとして投与されます。
ストレスの原因や環境の改善、フードの変化で効果が見られない場合に使用を検討します。
ストレスに対してうまく対処できない猫に対して効果があると考えられます。
薬名としてはアミトリプチン、クロミプラミンやパロキセチンなどが挙げられます。
抗痙攣薬
強い炎症により筋肉が痙攣し、尿道が詰まっているわけではないにもかかわらず尿が出せないことがあります。
薬名としてはフェノキシベンザミン、プラゾシン、ベタネコールなどが挙げられます。
サプリメント
猫の膀胱炎にクランベリーのサプリメントが効果的と書かれていることがありますが、効果があるのは尿路結石や細菌性膀胱炎に対してで、特発性膀胱炎には効果がありませんので注意してください。
療法食
ヒルズコルゲート社の「c/dマルチケアコンフォート」やロイヤルカナン社の「phコントロール+CLT」という特発性膀胱炎に配慮したフードを与えます。
従来の尿路結石に対する効果に加え、加水分解ミルクプロテインとL-トリプトファンを添加することで、脳内の精神安定物質であるセロトニンやGABAなどの働きを高めストレス症状の緩和を図ります。
ヒルズによる研究では症状の再発を89%抑えたと報告されています。
ドライとウェットフードがあります。
療法食でのすので必ず獣医師の指示のもと使用してください。
特発性膀胱炎の予後
症状はすぐに収まるのではなく、多くの猫では3〜7日位で症状が緩和していきます。
しかし、特発性膀胱炎は非常に再発の多い病気で、1〜2年の間に約50%の猫は再発してしまいます。
さらに症状が慢性化し治療が難しいこともあります。
猫が歳をとるにつれ、再発の頻度、重症度は低くなる傾向があります。
これは、加齢による腎機能の低下により、尿が薄くなることで、膀胱への刺激が減るからだと考えられています。
さいごに
特発性膀胱炎にはこれといった特効薬がなく、治療は長期にわたることもあります。
さらに再発することも多く、飼い主さんにとっても猫にとっても、もちろん獣医師にとっても辛い病気です。
命に関わるほど重症化することはほとんどありませんが、筋肉が痙攣し排尿ができなくなると危険です。
飼い主が症状だけを見て、それが特発性の膀胱炎なのか、通常の膀胱炎なのかの区別をつけるのは非常に難しいですので、症状が出たらかならず動物病院で診察を受けましょう。
治療においてはストレスの原因を特定するのが非常に大切です。
内科療法に頼るのではなく、フードそして環境の改善をしっかり行うことが治療の鍵です。
筆者の飼い猫も若い頃に何度も特発性膀胱炎にかかりました。
原因は家でアロマをたいたこと、虫よけスプレーをしたこと、匂いのきつい花を買ってきたこと、トイレの砂をにおいのついているものにしたことでした。
それ以来、我が家の猫は強いにおいにストレスを感じていることが分かったので、気を付けて生活するようになってからは発症することはなくなりました。
自分の猫が何に対してストレスを感じているのかは近くで見ている飼い主さんが一番わかると思います。
また、この病気は再発を繰り返すうちに、治療方法があっていないのではないかという不信感を持つこともあるかもしれませんが、もともと非常に再発が多い病気であること、治療が難しいことをしっかり理解し、獣医師と良好な信頼関係を築いてくださいね。
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「動物病院に連れていきたいけど治療費はどのくらいかかるんだろう?」
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という飼い主さんはとても多いです。
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