泌尿器の症状

獣医師解説。猫の急性腎不全の原因や症状や治療とは?回復はするの?

投稿日:2017年12月31日 更新日:

「愛猫が急性腎不全になってしまった…」

「急性腎不全の原因って何?」

「急性腎不全って治るの?」

なんてあなたは思っていませんか?

急性腎不全とは腎臓の機能が突然低下し、腎臓のフィルターが機能しなくなったり、毒素・老廃物を外に排出するための尿が出ない状態で、体内に毒素や老廃物がたまった状態のことを言います。

急性腎不全を理解するには、まず腎臓の仕組みを知る必要があります。

腎臓の構造

腎臓は腰の上あたり、背中側に背骨を挟んで左右1つずつあります。
1つの腎臓は、「ネフロン」と呼ばれる特殊な構造が約100万個集まってできています。
ネフロンは、数本の毛細血管が球状に絡まった小さなろ過装置の「糸球体(しきゅうたい)」と、糸球体からつながる「尿細管(にょうさいかん)」という管でできています。
尿細管はさらに「集合管(しゅうごうかん)」へ続き、腎盂(じんう)へつながっています。

腎臓の役割

腎臓は体内の血液をろ過するフィルターの役割を持っています。
身体に必要なものと、不必要なもの(毒素・老廃物)とに分け、毒素や老廃物は尿として外に排出されます。
これが腎臓の一番大きな役割です。
また、腎臓は、ろ過以外にもいろいろな機能を持っています。
ホルモンの産生や分泌を行い赤血球の産生を行ったり、血圧を調整しています。
さらに、腎臓はビタミンDの活性化も行います。
それにより、カルシウムの吸収が促され、骨を丈夫にする働きもしています。

慢性腎不全との違い

腎不全には「慢性腎不全」と「急性腎不全」の2種類があります。
慢性腎不全が数カ月~数年ほどかけてじわじわと進行する病気であるのに対して、急性腎不全は1日~数日ほどで急激に発症し、悪化するのが特徴です。
急性腎不全は放っておくと、1~2日で危険な症状に陥ることもある、とても危険な病気です。
一番の違いは回復するかどうかという点で、急性腎不全は原因が除去され適切な治療が行われた場合、完治の可能性が十分ありますが、慢性腎不全の場合は腎臓の75%以上が機能を失っていることが多いため、治療をしても完治は非常に難しい状態です。
慢性腎不全は現在の状態を維持することが治療の目的になります。

参照:獣医師解説。猫の慢性腎不全の原因や症状や治療とは?回復はするの?

参照:猫の慢性腎不全の初期症状とは?悪化させないためにはどうしたらいい?

参照:猫の慢性腎不全の末期症状とは?余命はどのくらいなの?

猫が急性腎不全になった時の症状

症状が突然にあらわれるのが特徴です。
日頃から食事管理やトイレの掃除をきちんとしていれば、急性腎不全の症状には必ず早い段階で気付くことができます。

初期症状

食欲の低下、水を飲む量が減る、元気がなくなる、尿の量が明らかに減る(乏尿:ぼうにょう)、あるいはまったく出ない(無尿:むにょう)、何度も嘔吐する、などといった症状が見られます。

末期症状

進行すると、体内から有害な物質が排出できなくなるため、重度の尿毒症が発症します。
具体的には、頻繁に嘔吐を繰り返し、痙攣や体温の低下、口からのアンモニア臭のほか、脱水症状が見られます。
さらには、昏睡といった症状が起こり、命に関わる場合もあります。

猫の尿毒症の症状や原因、治療法とは?末期症状や余命も解説

原因

腎臓の病気だけでなく猫下部尿路疾患や心不全など、急性腎不全を起こす原因は沢山あります。
発生機序(メカニズム)によって、「腎性腎不全」「腎前性腎不全」「腎後性腎不全」の以下の3つに分けられます。

腎性腎不全

腎臓自体に異常がみられるものです。
細菌性腎盂腎炎(じんうじんえん)、急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群などの感染症や腎臓に毒性のある物質の摂取などで、血液をろ過して尿を作る大切な糸球体(しきゅうたい)や尿細管そのものがダメージを受けて発症します。

腎前性腎不全

腎臓自体に異常は見られませんが、腎臓に流れる血液の流れが少なくなったために起こります。
貧血、脱水、ショック、心筋症などが原因となります。

腎後性腎不全

腎臓でつくられた尿が体の外へ正常に排出されない場合におこります。
オス猫が特にかかりやすい猫下部尿路疾患や腎結石などによる尿路閉塞(排尿困難)や、事故で尿路が傷ついたりしたことが原因になります。

猫下部尿路疾患

主に下部尿路(膀胱から尿道)に起こる、いろいろな原因と症状を含む病気の総称です
特発性膀胱炎、尿石(ストルバイト尿石、シュウ酸カルシウム尿石)、尿道栓子などによって発症することがほとんどです。

急性腎不全の原因となる可能性のある毒

・不凍液(エチレングリコール);自動車エンジンの冷却水が凍結しないようにする液体
・殺鼠剤
・ブドウ
・ユリ科の植物
・人間の薬
・ヘビなどの生物毒
などがあります。

急性腎不全は完治するのか?余命は?

原因が治療されれば、数日間で腎機能は改善することもありますが、腎臓そのものに障害がある場合は改善に数週間から数ヶ月必要な場合もあります。
また、完全には改善せず慢性腎臓病に移行し、生涯治療が必要なこともまれにあります。
腎臓にダメージがない状態で回復すれば生存期間に影響はありません。
治療が行われない場合は1~3日程度で死に至ります。

予防

急性腎不全は様々な原因があるため、完全に予防するのは不可能です。
ただ急性腎不全を防ぐための、いくつかの予防策もあります。

ワクチン接種、飼育環境の見直し

腎不全につながる細菌感染や尿路閉塞などを起こさないように、子猫の頃からワクチンを接種するのが良いでしょう。
人間用の食品を与えないなどの食事管理、清潔なトイレを用意したり、いつでも新鮮な水が飲める工夫をするなどの飼育管理を行うとともに、ワクチンで予防できない感染症にならないよう、また拾い食いなどをして中毒を起こさないよう、室内飼いに徹することなどが大切です。

猫にとって毒になるものを与えない

猫にとって毒になるものは多くあります。
明らかに食べてはだめなものは控えるかと思いますが、ユリ科の植物やブドウなどはあまり知られていないかもしれません。
また、意外と多いのが人間の薬や不凍液です。
そんなのも食べない。と思うかもしれませんが、人間の薬でも飲みやすいように味付けされているものなどは誤食の可能性が十分あります。
また、不凍液は液体自体に甘みがあり、間違ってなめてしまうことがあるようです。
北国に住む猫では、注意が必要です。
また人の食事も猫にとっては、決して体に良いわけではありません。
予防のためにも、普段から猫にとって危険なものが家で放置されていないか、確認する必要があります。

尿路結石にならないように注意する

猫が尿路結石などを患うことで、尿道が詰まってしまうと尿を出すことができなくなってしまいます。
当然毒素を体外に出す尿が出ないと、急性腎不全や尿毒症になってしまいます。
そのため尿路結石にならないように注意することが大切です。
尿路結石の予防法としては、水分をしっかり摂取し、ミネラル分を控えるために結石予防フードを猫に与えることなどがあります。
特に冬場は飲む水の量が減り、尿路結石は発症しやすくなる季節ですので、フードを水でふやかしたり、ウェットフードを取り入れるなど積極的に水を飲ませる必要があります。
よく、おやつに煮干しを与えている方がいますが、過度なミネラル分は結石の形成を促してしまいますので避けるようにしましょう。

猫の急性腎不全の治療

急性腎不全の場合は、一刻の猶予も許されませんので、入院治療のケースが多いです。

対症療法

急性腎不全の症状を軽減するための治療です。
急性腎不全に陥っている動物の多くが電解質やミネラルなどの体液のバランスが崩れていることが多く、本来は腎臓で生成された尿の中に排出される毒素などが体にたまってしまっています。
脱水の補正と、毒素の排出を目的に点滴治療を行います。
利尿を促進する薬を使ったり、透析をすることが必要な場合もあります。

栄養補給

急性腎不全にかかっている猫の多くは、嘔吐などによって体力を消耗します。
そのため栄養が豊富な食品を猫に与えることで、体力を補います。

原因となっている病気の治療

急性腎不全になった猫には何らかの原因があります。
原因は様々ですが、結石による尿道閉塞や心不全などを発症していることもあり得ます。
尿路の閉塞解除や損傷の修復のため、手術が必要となることがあります。
こういった急性腎不全を招いた根柢の原因を治療することで、病気そのものからの回復を図ります。

透析治療について

人工透析療法とは、自分の腎臓の働きだけでは生命の維持が困難になった場合に、腎臓の働きを人工的に補助する『腎代替療法』の一つです。
人間の腎臓の病気では当然のように行われている透析治療ですが、動物では普及率はまだまだ低いです。
しかし、透析を行わなければ救命できないことも多く、徐々にですが透析治療を行える施設が増えてきています。

透析の種類

透析療法には、血液透析と腹膜透析の2種類があります。
「血液透析」は、専用の透析装置(ダイアライザー)を使う方法で、血液を一度体外に出し、ろ過装置と透析液によって老廃物を取り除き、浄化した血液を体内に戻す治療です。
人の透析では血液透析が一般的になっています。
「腹膜透析』は、専用のカテーテルを猫のお腹に装着し、そこから透析液を注入し、腹膜を介して老廃物を透析液の中に引き込み、その透析液を回収、排泄することで老廃物を除去する治療法です。
腹膜透析は、機械などが必要ないため、動物医療でも以前から行われていた方法です。
また、近年は連続携行式腹膜透析という、処置時間を短縮、簡素化した方法もあり、自宅でも腹膜透析を行うこともできるようになってきています。

猫の透析の方法

透析治療は、状況が改善するまで複数回、数日~数週間に渡って行われます。
そのため、専用のカテーテルを体に埋め込む必要があります。

血液透析の方法

猫の場合、軽い鎮静処置、もしくは短時間の全身麻酔を施し、首の頸静脈に専用の中心静脈カテーテルを設置します。
取り出した血液を、透析処理を行うダイアライザーの中に通して、老廃物の除去や電解質の調整を行ってから、再び体の中に戻します。
透析の時間は、数値や状態によっても変わりますが、平均的に一回2~3時間かかり、週に3回程度行います。

腹膜透析の方法

透析液を注入するための腹腔内カテーテルを腹部に設置します。
この際、軽い鎮静処置、または短時間の全身麻酔が必要になります。
カテーテルを通して腹腔内に透析液を注入します。(200~300ml程度)
1~2時間程度、透析液を入れたままにしておきます。
そうすると血液中の老廃物や尿毒素、電解質などが浸透圧によって透析液の中に移動します。
その透析液をまたカテーテルを通して回収します。
これを数回(3~5回)繰り返します。
腹膜透析は状態にもよりますが、毎日、複数回が一般的です。
これらは機械ではなく、手動で行います。

透析療法の効果

透析療法の治療効果としては、尿毒症の改善、高血圧の改善、貧血の改善などが挙げられます。
腎不全の治療で必須の皮下輸液や点滴よりは確実に効果は高いです。
基本的に透析療法は、急性腎不全に対し行われる治療で、救急救命措置という位置付けになります。
急性腎不全での透析療法は、透析治療を行う間に急性腎不全に陥った原因の障害を治癒させることで、救命ができ、その後、透析療法から離脱できるまで回復させるための治療です。

透析療法の適応時期、適応数値

・血液尿素窒素 (BUN) が100mg/dL以上、クレアチニン(CRE)濃度が5 mg/dL以上となった場合。
・急性の腎障害で静脈からの点滴を24時間行っても改善が見られない場合
・利尿剤を使っても尿が出ない(欠尿、無尿)状態
・水分過剰状態になり、強いむくみ(浮腫)が生じた場合
・心臓に無理がかかるために心不全状態となった場合
・カリウムなどの電解質濃度が生命を脅かすほど異常を示す場合
などが透析治療の適応となります。

血液透析と腹膜透析の比較

・1回の透析効率、効果は血液透析の方が高いです。
・治療にかかる時間も血液透析の方が短く済みます。
腹膜透析は何度も繰り返す必要があるため、拘束時間が長く通院では難しいです。
・合併症は血液透析の方が多く、リスクは高いですが、カテーテル挿入における感染症のリスクはどちらもあります。
・腹膜透析は、お腹に大量の透析液を入れるため、膨満感などの違和感や不快感が伴います。

猫の透析療法の費用

費用面では圧倒的に血液透析が高いです。
病院によって異なりますが、平均的には、透析1回につき、血液透析の場合50.000~100.000円くらい、最初のカテーテル装着処置は20.000円程度です。
急性腎不全であれば順調に回復すれば、数日で徐々に回数を減らしていき、2週間程度で離脱できます。
腹膜透析は、費用も血液透析に比べれば安く、数千円~20.000円程度、最初のカテーテル装着処置は10.000~20.000円です。

さいごに

急性腎不全は、一度発病すると完治が不可能な慢性腎不全と違い、腎機能が破壊されていないうちに適切な治療を受けることができれば、回復し完治する可能性が十分ある病気です。
ただ危険な病気であることには変わらず、命を落としたり、回復しても後遺症として慢性の腎不全に移行してしまうこともあります。
急性腎不全にはかならず原因となる基礎疾患があります。
まずは、急性腎不全を起こす基礎疾患にかからないように予防していくことが重要です。
もし、急性腎不全になってしまったら一刻も早く治療を開始する必要があります。
急性腎不全の症状は激烈ですので、普通に生活していればかならず気付きます。
様子を見ずにすぐに病院に連れて行ってあげてください。
カテーテルの維持の困難さから血液、腹膜ともに透析治療を行う病院はまだ少なく、また血液透析の装置を導入している病院は全国でもわずかです。
もし、対症療法で状態が改善しない場合は、透析治療を行える病院などを探す必要もあります。
急性腎不全の治療の1つとして透析療法があるということも知っておくと、治療の選択の幅が広がり、助かる命をあきらめないで済むかもしれません。
今はまだ透析治療は慢性腎不全では積極的に使用されていないため、全国的に普及率が低く、どこでも行える治療ではありませんが、少しずつ使用頻度や適応範囲が増えていけば、費用もさがり、行える病院も増えていくでしょう。





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